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interview

幸せになる
「ものづきあい」

小説家
小川 糸さん

小川糸さんは、著書「食堂かたつむり」の
主人公のように、料理が好きで、日々の暮らしが好き。
世の中と一緒に流れるのではなく、
自分の心の声を素直に聞いて、
一生添い遂げられるものを、時間をかけて探してきた。
幸せになる「ものづきあい」をしてきたミニマリストに話を聞いた。

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  • ものが少ないと、余裕が生まれます
    30代の後半から、夏になるとベルリンに滞在するようになりました。ベルリンの人は、持ち物は少ないけれど大切に使います。住まいのなかでは、すべてがしまわれていて、雑然とした感じがありません。そんな空間が、とても気持ちいい。ものを少なくすると、気持ちにも空間にも余裕が生まれることに気づきました。日本は、ものがあって豊かになるのではなくて、ものがあり過ぎて不自由になっている。住まいのなかに、いろいろなものがあふれて、ぎゅうぎゅうでがんじがらめになって、息苦しくなっている気がします。

    一生添い遂げられるものを探す
    このようにお話していると、物欲がないように思われますが、欲しがらないのではなく、好きなものには貪欲にこだわります。お湯を沸かすのは鍋でもできるけど、鉄瓶を使えば、まろやかで優しい味のお湯が味わえます。毎日を楽しめる、一生添い遂げられるものを探して、つきあっていく。余分なものはなくして、選りすぐることで自分の幸せに敏感でいられるのだと思います。
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  • わが家のご飯は、精米から
    一般的には、「ごはんを炊くのは炊飯器」と考えられていますが、わが家には、ご飯を炊くための必需品として、精米機、文化鍋、おひつという三種の神器があります。お米は生もの。つきたてが美味しい。20年来のおつきあいがある農家の方から届けていただいた無農薬米を食べる分だけ精米して、文化鍋でおいしく炊いて、十分に蒸らして、天然秋田杉のおひつへ。炊きたてのご飯の余分な水分は飛んで、うまみが凝縮されます。20代前半から、ずっとこのやり方でご飯を炊いています。

    自分だけの幸せになれる基準を持つ
    精米機は買ってよかったと思える家電です。家で精米すれば、玄米を白米や胚芽米にしたり、自分で選べます。干物など魚のおかずには玄米を合わせるなど、工夫ができます。それに精米した後の糠で、糠漬けも楽しめます。炊飯器はなくて、精米機は必需品。世間一般の考えとは違いますが、私は「自分が幸せになれるか」という基準で選んでいます。そうして、本当に自分に必要なものだけを増やしていくのがいいと思います。
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  • 調味料は、6つの定番を使いこなす
    シンプルに暮らすためには、簡単にものを家に入れないことが重要です。わが家の調味料は、味噌・本みりん・だしつゆ・醤油・酒・酢の6種類だけ。それぞれに定番があります。この6つをフル活用して、味つけを心がけています。これがあれば、「間違いなく、おいしくできる」と信じられる調味料があると、料理にも迷いがなくなり楽しめます。

    こだわって、少なくしました
    日常に使うものは、“これ”というお気に入りに出合うまで、こだわります。根を詰めて探すというより、焦らずじっくり。知人が紹介してくれたものを試したり、通りすがりのお店や旅先での偶然の出合いを大切にしています。わが家の定番味噌は何年も試行錯誤をして、出合うことができた一品。食材でも道具でも同じですが、簡単には見つからないという苦労は、愛着にもつながります。

    スカスカに感じる収納が、うれしい気持ちに
    ものが少なくなると、キッチンがすっきりします。収納は“上手に詰め込む”のではなく、調味料や食器、調理道具を少なくして隙間を持たせています。わが家の棚は5割〜7割で、スカスカに感じるくらい。食器を高く積まないので、奥にあっても取り出しやすいですね。収納を開けるたびに、うれしい気持ちになれます。
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  • 自分が心地いい住まいへ
    2年半ほど前に自宅の一部を、より自然に近い素材を使ってリフォームしました。実はリフォームのいちばんの目的は、冷蔵庫の「ウィーン」という音の解消です。その低音が、執筆するときなど集中の妨げになって、些細なストレスに苛立つ自分が嫌でした。そこでリフォームの際に、キッチンとは別に冷蔵庫部屋をつくり、扉を閉めれば音が外に漏れなくなりました。音や光、肌触り…五感が喜ぶ環境づくりをすることで、衣食住も自分らしく磨かれていきます。

    住まいは自分のからだの延長
    からだつきが違えば、使いやすさや心地よさを感じる部屋のサイズ感なども違うように、「好き」や「心地がいい」という基準は、人それぞれ。とても主観的なものです。なので「他人がどう評価するか」ではなく、「自分がどう感じているか」が大切だと思います。「こうして暮らしていれば、自分は幸せ」という基準を持って考えていくのがいいでしょう。
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profile

小川 糸さん
小川 糸さん
小説家。2008年に発表した小説『食堂かたつむり』(ポプラ文庫)が映画化され、ベストセラーに。同作でイタリアのバンカレッラ賞(2011年)、フランスのウジェニー・ブラジエ小説賞(2013年)をそれぞれ受賞。主な著書に、『喋々喃々』『ファミリーツリー』『リボン』(ポプラ社)、『にじいろガーデン』(集英社)、ドラマ化された『つるかめ助産院』(集英社)などがある。 最新の長編小説は、『サーカスの夜に』(新潮社)。

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これだけで、幸せ
これだけで、幸せ
小川糸さんが、「少なく贅沢に」をキーワードに、心地よい暮らし方や人生を大切に生きるための秘訣を、もの選びを通して教えてくれます。上質なモノとのつきあい方のヒントがつまった一冊。2015年11月出版(講談社)



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