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interview

一生、楽しんでほしい
生活の基本となる服

衣服作家
安藤明子さん

装いの一部として、そのカタチはシンプルだが
一生、楽しめる衣生活の基本となる服。
それは、安藤明子さんがつくる百草サロン。
その筒状のスカートは
どんなふうに暮らしを変えるのだろうか。

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  • 欲しいものが見つからないときは、自分でつくる
    結婚後に、これから一生の衣生活について考え、模索した答えが「百草サロン(以下、サロン)」です。子どもを授かってからは、昔ならごく普通に手づくりしていたであろう「よだれかけ」や「ガーゼハンカチ」を手縫いでつくりました。子ども時代から遊びや生活の中で、欲しいものを工夫してつくることが好きだったので、その延長線でつくっています。

    衣生活の基本となる服
    洋服にはサイズやパターンがあり、少なからず流行に左右されます。素材が好きでも、長く着ることが難しいものも特にその頃は多かったのです。私は20代前半に祖母の着物を着ていた経験から、自由に組み合わせ、自在にサイズを調整できる着物の現代型のような衣服を模索していました。日本の気候風土に根ざした主食がお米であるように、「衣生活のベーシックとなる常服はなんだろう」と試行錯誤を続けて生まれたのがサロンです。
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  • 自由自在に変化させられるサロン
    サロンは、筒状に平面の布を縫い合わせたアジアの民族衣装が原型です。筒状の布を身体に沿わせ、共布の腰紐を用いて、ウエストで固定するオリジナルの様式を決めました。ウエストはフリーサイズです。丈も好きな長さにでき、余った布は予め折り返すか、腰紐で固定した後から着物のお端折りのように折り返します。自在に変化させられるので、年齢なりの体形に合わせて美しく着ることができます。産前はお腹を持ち上げるようにサロンの布を当てて腹帯兼用スカートに。産後は腰位置にしっかりと固定することで、骨盤矯正の役目を果たしてくれます。

    身につけると、気持ちがしゃんとする
    サロンは、着物の着心地に似ています。布の面が腰からウエストを支えるので、着物を着たときのように姿勢が良くなり、気持ちがしゃんとします。洋服のように規定のサイズに身体を合わせるのではなく、布を身体に合わせて身に着けるので、いつでもぴったりのサイズ感で着ることができます。オン・オフや体調などにより、締め方で着心地を調整できます。

    季節や気分に合わせて、重ねて着こなし
    さまざまな素材で制作するサロンは、ウエスト位置の周囲をすべて同寸にしています。それにより、一本の紐での重ね履きが可能になります。夏には風通しのよい綿麻製サロンの内側に、汗取り・透け防止にガーゼサロンを重ねて、涼やかに。冬は、風を通しにくい布地でつくったサロンを外側にし、内側にはウール素材などのサロンを沿わせて、暖かさを閉じ込める。そうして四季に応じた着こなしや、その日の気分に合わせたオリジナルのコーディネートを楽しむことができるのです。
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  • シンプルだから、多様に使えます
    筒状で平面布のサロンは、シンプルだからこそ多様に使えます。体型の変化にも対応でき、どんな方にも、どんな組み合わせでも、また洋服との重ね着も楽しめ、用途やおしゃれの幅が広がります。また、そのまま布として使えば、風呂敷のような包み布や敷布に。幅を半分に折り、首に環を通してスヌードとして用いたり、環に腰紐を通せばエプロンにもなります。3人目の子育ての際には、新生児から抱っこ紐としてフル活用。抱っこが終わったら、再びサロンとして使いました。

    不要がそぎ落とされ、暮らしが変わる
    現代は、便利で安価なモノが溢れています。質もそこそこで使い手や消費者の立場からは、ありがたい事もありますが、本当に気に入ったモノでないとすぐに飽きて、結局は無駄になってしまいます。モノがどのように生まれたか、買うことの意味に思いを馳せなければなりません。実際に手に取り、心惹かれたものを、そのバックボーンまで知ったうえで迎えることで、暮らしそのものの純度が高くなり、不要がそぎ落とされます。そして、暮らしが変わっていきます。同時に世の中も変わっていくことでしょう。買うことが技術や文化を支え、使い心地を通してその素晴らしさを味わい、素材やつくり手に感謝できる関係が理想的だと思います。
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  • 朽ち果てるまで使ってほしい
    下重ねサロンに用いている知多木綿製の太番手ガーゼ生地は、吸水性に富み、乾きも早く、肌にも心地いい。サロンの用途を終えた後は、雑巾やバスマットとして使ってほしいと思います。使い込んだ布でつくる雑巾の使い心地は最高です。そのように使い尽くされることが、布の一生として本望だと思います。また定番の綿タッサ・厚地木綿などは、経年変化を楽しみ、引っ掛け穴などは継ぎを当てながら使い込むことによって、現代の「Boro」にも通ずる美しさになり得ると思います。

    丁寧につくられた質の良いモノを選んで使い、暮らしを豊かに
    サロン制作や百草で紹介しているものの根底にあるのは、「背景にあるモノづくりを知って選び、長く大切に使ってほしい」という想いです。作家の手仕事のみならず、今に続く歴史により培われてきた技術を持続させるために、使ってもらうことで、素材のつくり手の方々の応援ができればと思っています。私たちも、同じ志を持つ先達に刺激を頂きながら、素材の良さを最大限に引き出せるような、心地よく心躍るサロンづくりに励んでいきたいと思っています。最近は、丁寧に暮らす世の中の流れが生まれています。微力ながら、そんな流れのお手伝いをしていけたらと思います。
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profile

安藤明子さん
安藤明子さん
衣服作家。夫である陶作家・安藤雅信と共にギャルリ百草を主宰。結婚後、自らの衣生活について考え始め、現代の日本人のための常服というコンセプトで、百草サロンをはじめ素材を活かした作品を創作。真木千秋、谷口隆、ミナ・ペルホネン、SPOLOGUM、しょうぶ学園nui projectとのコラボレーションを続けている。(敬称略)

関連サイト
ギャルリももぐさ

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#百草サロン- それぞれの衣生活
#百草サロン- それぞれの衣生活
百草サロンは、季節に応じて、人それぞれに装うことができる衣服。流行に関係なく、着続けたい衣服として支持されている。14種類もの異なる紙を組み合わせ、変形サイズや袋綴じなど製本のアイデアを駆使し、サロン愛好者が撮りためたスナップを持ち寄って、手作りでスクラップしたような一冊。2015年12月発行(倉敷意匠計画室)



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