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interview

美しくなった日本の空。
街なかでも星座が見えます

国立天文台 天文情報センター
准教授・普及室長
縣(あがた) 秀彦さん

「日本の空は1900年代後半に比べて
大気が澄んで美しくなっていて、
工夫をすれば星座の形が見えます」。
縣先生に街なかで星を見る方法や
今秋の天体観測のお勧めを伺ってきた

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  • 星が降りそそぐような空
    僕は、長野県の北安曇郡八坂村(現・大町市)で育ちました。そこでは、2月の寒い時期に「鳥追い」という行事がありまして、もうやっているところは少ないでしょうね。確か、僕が小学3年生のころから参加したと思います。朝の3時に集まって、集落の家を一軒ずつ回っていく。羽子板や拍子木を叩きながら、雪道を歩いて行くんですね。白い雪原のなかに星が降りそそぐような空を見て、星や宇宙に興味を持ちました。

    畏敬の念が発生しました
    その後に、小学校の図書室で「宇宙の神秘」や「科学のアルバム」という本を見つけて、何度も読みました。そのなかに星の一生や春夏秋冬の星空の写真がありまして「星空はきれいだな」と思うと同時に、その存在の大きさや果てしなさ‥‥などに畏敬の念が発生しましたね。そんな子ども時代を過ごして、天文学に進みました。

    宇宙には「夢があるんだ」と思います
    星や宇宙に興味を持つ子どもは、昔より多くなっている気がしますね。夏休みに売れる子ども向けの図鑑があって、昆虫と恐竜と星・宇宙の3つが圧倒的に売れています。今年からスペースツアーが始まっていて、数年もすれば、月の上を女性の宇宙飛行士が歩く時代です。子どもたちがロマンや冒険心を感じる‥‥「夢があるんだ」と思いますね。
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  • 日本人は星好きの民族です
    昔から、日本人は星好きの民族です。古くからお月見を2回する民族はそういないんですね。「中秋の名月の十五夜」とその1か月後の「後の月の十三夜」のふたつ。それに七夕祭りです。七夕は中国から来た風習ですけれど、日本人は熱心です。江戸時代には東京から天の川が見えていて、盛大にお祝いしていました。今でも、幼稚園や保育園で、お月見や七夕に接しています。

    プラネタリウムは350館くらい
    日本のプラネタリウムは多くて350館くらいはあります。これは、世界で2番目という数です。公開している天文台施設は、日本には500以上ありますから、こちらもかなり多いと思いますね。その他にも、出版されている書籍や雑誌、天体望遠鏡の販売数を見ても、日本人が星好きであるのは間違いないですね。

    八百万神の文化ですから
    もともと自然豊かな国ですし、八百万神の文化ですから、星や宇宙を他の神様と同じように「ありがたさを感じながら生きてきたのだ」と思います。人間にはないものねだりのところがあって、僕が体験したような満天の星空は見ることができないので、そこに対しての憧れもありますよね。そのふたつがあって、今でも日本人が星空好きなのでしょう。
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  • 日本の空は澄んでいます
    1970年代から2000年代に入るころは、大気が汚れていて星が見えませんでした。しかし、日本が大気をクリーンにすることに取り組んできて、工夫をすれば2等星まで見ることができます。外国の都市に行くと、星が見えなくてがっかりすることは多いですけど、日本は都市部でも星が見えるというのは、その部分では環境先進国ですね。

    街なかで、星空を見る方法
    でも、多くの人は星が見えることを知らないんですよ。だから「見える」ことを、みなさんにお伝えしています。人間の目は、寝るときに灯りを消すとまっくらになります。でも、しばらくすると瞳孔が暗いところに慣れて、瞳が大きくなって、よく見えてきます。モノを認識するという脳の働きも含めて、10~15分以上、明るい光を遮って、目に入らないようにすると星が見えてきます。オリオン座とか星座の形が見えてきますよ。

    自宅で星空を楽しもう
    部屋の灯りを消して、バルコニーや高窓、庭から、星空を眺めるといいですね。大きな高窓があれば、寝転んでじっくり見るのもいいですね。最近はバルコニーが広くなっていますから、天体望遠鏡の三脚を立てやすくなっています。手ごろな天体望遠鏡を買われて、星空や月を見るのもお勧めです。
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  • 今年の秋は惑星がお勧めです
    今年の秋のお勧めは、惑星ですね。夕方のトワイライトと言いますけど、日が沈んで空の色が変化していく時間帯は、情緒的でいい。特に秋はいいですね。その西の空に金星が明るく見えるんですよ。宵の明星ですね。それがだんだんと明るく輝いていきます。金星はマイナス4等と1等星より100倍も明るいので「なんだこりゃ」とびっくりすると思います。

    東の空には、木星と土星
    西の空に金星が見えている時間帯に振り返って、東の空を見ると木星と土星が見えますね。木星は惑星のなかでいちばん大きな天体で、マイナス3等で金星と同じくらいに明るいんです。土星は0等星なので、かなり暗くならないと気がつかないかもしれませんが、それでも3つの惑星が楽しめます。
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    国立天文台 天文情報センター

  • 星空を見て、幸せになる
    星空を見て「自分の悩んでいることから乗り越えられた」という話はよく聞きます。星空に真摯に対峙していくと、大きなスケールで世界を俯瞰することができて、自分を見つめられたのでしょう。それに、利他主義と言いますか、社会全体や他者を大切にする気持ちが生まれます。最近の心理学や脳科学では、そういう研究結果が出始めています。星空を見ることは、楽しみになりますし、幸せになれるんです。

    天文学を身近な存在に
    コロナ禍によって「未来の人間の生活様式やビジョンが変わっていく」と思うんですよね。人間がどう生きるのが幸せなのか‥‥。天文学は最も古い学問で、2万年くらい前から人間は星空を見てきました。天文学は「理系の哲学」と言われますけど、これまで以上に「身近な存在であってほしいな」と思いますね。
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profile

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縣(あがた) 秀彦さん
1961年、長野県生まれ。東京学芸大大学院修了(教育学博士)。東京大学教育学部附属中・高等学校教諭等を経て1999年より国立天文台勤務。現在、国立天文台天文情報センター准教授・普及室長、宙ツーリズム推進協議会代表など。「面白くて眠れなくなる天文学(PHP出版)」、「日本の星空ツーリズム(緑書房)」、「星の王子さまの天文ノート(河出書房新社)」など多数の著作物を発表。NHKラジオ深夜便「ようこそ宇宙へ」にも出演中。

関連サイト
国立天文台

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