セカンドライフコラム 第1回

今を楽しみ、将来に備えるために必要なこととは?

「人生100年時代」と言われています。60代で定年を迎えるとして、「セカンドライフ」と呼ばれる期間は40年近くあることになります。できるだけ長く、アクティブで充実したセカンドライフを送るためには、どのように備える必要があるのでしょうか。ミサワホームの介護事業を担う、㈱マザアスの吉田肇さんにお伺いしました。

プロフィール

吉田 肇さん

㈱マザアス代表取締役・社長。ミサワホーム入社後、介護事業に従事。グループ会社マザアス設立後、介護施設の運営、コンサルティング事業などを手掛ける。高齢者住宅経営者連絡協議会副会長、公益社団法人全国有料老人ホーム協会理事、一般社団法人高齢者住宅協会住生活部会長、一般社団法人住宅生産団体連合会成熟社会居住委員会WG座長。医療法人なごみ会理事。

「終の棲家」をめぐる想いと現実のギャップ

セカンドライフについて考える前に、少し厳しい現実についてお話ししたいと思います。このグラフは、「終の棲家」についての想いと現実のギャップを表したものです。内閣府の調査によると、身体機能が低下して車いすや介助が必要になった場合に、可能な限り自宅に留まりたいと希望する高齢者は約73%。しかし現実には、自宅で最期を迎えた人の割合は約14%にすぎず、約76%の方が病院で最期を迎えています。

出典:希望―内閣府「高齢者の生活と意識に関する国際調査比較」(2020年)、現実―厚生労働省「人口動態統計」(2019年)
注:希望における「自宅」には、子の家、高齢者向け住宅を含む

私はミサワホームグループの介護会社「マザアス」で、高齢者住宅での施設サービスやご自宅での在宅介護サービスに従事していますが、終の棲家に関するこうした理想の「想い」と「現実」のギャップの背景には、「備えの遅れ」があるように思えてなりません。
「縁起でもない。まだ元気だから大丈夫」「介護が必要になってから考えよう」と、備えを後回しにすることで、実際に介護が必要になったときにご自宅での生活が難しくなり、施設や病院に移ることを余儀なくされる方々を、たくさん見てきたからです。

これからの時代は、早めの備えがさらに重要になることを示す、データも明らかになっています。

その一つが、認知症高齢者の増加です。高齢人口が年々増えているだけでなく、高齢者に占める認知症の方の割合も今後、上がるとみられています。その数は2025年には730万人と、65歳以上の高齢者の5人に1人を占めるようになるとの予測もあります。

※(参考)「日本における認知症の高齢者人口の将来設計に関する研究(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業)各年齢層の認知症有病率が2012年以降も上昇する場合の将来設計」より。
※出典:国立社会保障・甚句問題研究所「日本の将来推計人口 平成29年推計」より2025年時点の推定人口(当社にて算出)
※平成31年文部科学省「文部化学統計要覧」より

認知症の人が所有する住宅数の増加も心配されています。2021年時点で、認知症の人が所有する住宅は221万戸あると試算されており、2040年には280万戸になるとみられています。

意思表示の能力が失われれば、住宅の売却は非常に難しくなります。次の世代に「負の遺産」を残さないためにも、できるだけ早いタイミングで「住まいをどうするか」について考えておく必要があるのです。

高齢者の交通死亡事故よりも、家の中に危険が

認知症や身体介護が必要になられた場合、ご自宅にまったく手を加えないままで暮らすのは困難になります。自宅は高齢者にとって、ときに家の外よりも危ない場になってしまうからです。

グラフを見ると、高齢者の交通死亡事故は年々減っている一方、転倒や入浴時の死亡事故など、家庭内での死亡事故は増加しています。2020年の入浴時の死亡事故件数は交通事故の2倍以上、転倒事故は4倍以上にものぼっています。

出典:出典:厚生労働省「人口動態調査」、消費者庁報道発表資料令和3年12月8日
注:家及び居住施設の浴槽における死亡者数は、「W65 浴槽内での溺死及び溺水」と「W66 浴槽への転落による溺死及び溺水」を基に消費者庁で作成

こうした家庭内事故を防ぐためにも、自宅に住み続けるのであればリフォームや建て替えが必要になりますし、住み替えるのであれば、シニアが安全かつ快適に過ごせるマンションなどを購入・賃貸したり、有料老人ホームなどを利用したりすることが必要になります。

住み続けるのか、住み替えるのか。いずれにせよ、さまざまな選択肢がありますが、備えを後回しにすればするほど、選択肢は狭まり、理想のセカンドライフの暮らしが遠のいてしまいます。だからこそ、豊かなセカンドライフのためには、早めの備えが欠かせないのです。

今を楽しみながら将来の備えを

しかしだからといって、将来のために今を犠牲にする必要はありません。今を楽しみながら、充実したセカンドライフのために備えればいいのです。

ミサワホームは『住まいを通じて生涯のおつきあい』という企業理念を掲げ、30年以上前からオーナーさまのセカンドライフに伴走してきました。その経験からは、今を楽しみながら将来に備えるためには、「心」「健康」「お金」がカギとなることがわかってきました。そしてこれら3つに加えて、セカンドライフを「どこでどのように過ごすのか」が非常に重要となります。心、健康、お金のいずれも、どのように暮らしていきたいのかという理想の住まいとの関連を考えながら備える必要があります。

次回以降の連載では、今の暮らしを楽しみながら、豊かなセカンドライフのために備えるべきポイントを、「心」「健康」「お金」に分けて、専門家の方々が解説し、住まいをどうすべきかを考えていきます。さらに、50代の「セカンドライフ予備軍」世代による、親の終活失敗談など、オーナーさまのセカンドライフへの備えに役立つ情報をご提供していきます。どうぞお楽しみに。