© TS Productions - Amrion Ou - La Parti Production − 2012
原題は「パリのエストニア人女性」。エストニア出身のイルマル・ラーグ監督が、時を隔てエストニアからパリに渡った、世代の異なる二人の女性の交流を描いた物語。孤独な老婦人フリーダ(ジャンヌ・モロー)が、彼女の世話をするためやってきたエストニア人女性アンヌ(ライネ・マギ)に少しずつ心を開いていく様子が、さり気ない表情の変化で描かれ、心を深く揺さぶられる。
『クロワッサンで朝食を』
監督:イルマル・ラーグ
出演:ジャンヌ・モロー、ライネ・マギ、パトリック・ピノーほか
『クロワッサンで朝食を』
発売・販売元:ポニーキャニオン
DVD/ブルーレイ¥4,700(税別)
上の世代から若い世代へ、男どうしだから受け継げるものを描いた作品がある。例えば、クリント・イーストウッドの『グラン・トリノ』がそうだろう。一方で、女どうしだから受け継げるものを描いた作品もある。昨年、日本でヒットした『クロワッサンで朝食を』がそのひとつ。年上の女性を演じるのが、フランスの名女優ジャンヌ・モローなのだから、受け継ぐものの大きさは計り知れない。これまでの映画で身につけてきたという私服のシャネルを、パリ18区の高級アパルトマンの一室で、部屋着として着こなす彼女のかっこよさには、ファンならずとも圧倒されてしまうだろう。
そんなモローが演じる独り身の老婦人フリーダの身の周りの世話をするために雇われたのが、エストニアからやってきたアンヌ。母親を看取り、抜け殻となったところへ舞い込んだ憧れのパリでの仕事。彼女が毎晩、ひとり街のショーウインドウを眺めては、心ときめかせる場面がいい。
フリーダの家へやってきて、アンヌは少しずつ洗練され、美しくなっていく。アンヌをそうさせたのはフリーダと、彼女のセンスが集約されたアパルトマン。シックな色彩で何気なく統一された部屋には、イヴ・サンローランの60年代の手縫いのカーテンや、シャネルの自宅にあったというコロマンデル風の屏風など美しいものが調和していて、この部屋とジャンヌ・モローの一挙一動を見ているのが、なんともいえず心地いい。
おしゃれは1日にしてならずというような、それまでの生き方を感じさせるフリーダの着こなしも素敵だが、同じことが彼女のインテリアにも言える。彼女の奥底で輝きを失わないスピリットが、アンヌに、そして観ている私たちにも浸透していくような1作。
文◎多賀谷浩子(映画ライター)