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世界中で愛され続けているモーリス・センダックの絵本を『マルコビッチの穴』など独創的な作品で知られるスパイク・ジョーンズ監督が映画化した作品。かいじゅうたちの造形、息遣いが聞こえてくるような自然でやわらかな映像、マックスの心情に寄り添う優しい音楽など、監督のセンスがあらゆるところに光る。原作の絵本が好きな人も裏切らない世界が広がっている。
監督:スパイク・ジョーンズ
出演:マックス・レコーズ、キャサリン・キーナーほか
『かいじゅうたちのいるところ』
発売・販売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
¥1,500(税込)
※ブルーレイは7月6日発売 ¥2,500(税込)
8歳というのは、微妙な年齢だ。この年齢の主人公を描いた物語や映画も少なくない。それはきっと8歳が、子どもと大人の境目の時期だからだろう。大人になったら、羽ばたくことのできない想像の国。この映画の主人公・マックスは、そんな想像の世界で自由に遊ぶことのできる8歳の男の子だ。
だから、彼の部屋には想像の産物が溢れている。ベッドの中で手作りの小さな船を動かして探検家ごっこをするマックス。そのそばには段ボールで作られた小さな砦や鳥の巣…彼の冒険の舞台が広がっている。この映画の子ども部屋には身近な素材で作られた手作りのオブジェが色々飾られていて、映画全体がそんな手作りのあたたかさに包まれている。
それを代表するのが、ママと喧嘩したマックスが家を飛び出した果てに到着する不思議な島のかいじゅうたち。CGに頼りすぎない、精巧な着ぐるみのかいじゅうたちが醸し出す、アナログな手触りがなんともあたたかい。そして、まるで人間のように繊細なかいじゅうたちの表情が、微妙な年齢のマックスの冒険物語を感情の機微豊かに伝えていて引き込まれる。
かいじゅうの島で王様になったマックスが、かいじゅうたちと遊ぶ場面は大人が見ても心躍る。大きな体を自由に揺らして、踊ったり、飛んだりするかいじゅうたちの無邪気な姿に、理屈抜きにうれしくなる。この映画は、8歳の頃を忘れた大人にも当時の感覚を思い出させてくれる。そして、見終わる頃に心に残るのは、子どもの季節から、少しだけ現実を知って大人になった時のほろ苦さ。なんとも切なくあたたかな後味。
原作は幼い頃に読んだ人も多いだろう名作絵本。こんな風に映像化した監督の想像力に驚かされる。彼の中にはきっと8歳の子どもがいまも住み続けているのだろう。
文◎多賀谷浩子(映画ライター)