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ノルウェーの監督、ベント・ハーメルの最新作。『キッチン・ストーリー』(03)や『ホルテンさんのはじめての冒険』(07)など、飄々とした独特の間合いで、クスリと笑ってしまうような人間のおかしみを描いてきたベント監督。本作では、雪深いイブの夜を舞台に、様々な事情を抱えた、ちょっと不器用な人たちのクリスマスをあたたかに見守る。人生に躓いた人たちへのまなざしが、やさしい。
2010年/ノルウェー・ドイツ・スウェーデン
2011年12月3日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全国順次公開
『クリスマスのその夜に』
監督:ベント・ハーメル
出演:トロン・ファウサ・アヴルヴォーグほか
色々なことが起きた2011年にも、もうすぐクリスマスがやってくる。何気ない普通の日常がどれだけかけがえのないものか、あらためて気づかされた今年だからこそ、いつものクリスマスがより大切なものに思えてくる。
12月に公開される映画『クリスマスのその夜に』の舞台はノルウェーの小さな町。そこに暮らす様々な家の小さなクリスマスが一つひとつ大切に描かれている。 たとえば、イスラム教徒の女の子に恋をした小学生の男の子。クリスマスを祝う習慣のない彼女に合わせて「僕の家もクリスマスはしないよ」と嘘をつく彼。ベランダで二人だけで過ごすぎこちないイブの模様が、初々しい。
一方で、かなりヘビーなイブを過ごす人もいる。妻から別れを言い渡され、家族に会えない33歳の男性。どうしても妻に会って子どもたちにプレゼントを手渡したい彼は、かなりイレギュラーな手段で家族との再会を果たす。
再会といえば、長年ぶりに偶然の出会いを果たした男女もいる。互いに孤独でも、それを口には出さない二人。イブの夜のサプライズ・プレゼントのような出会いが、二人の人生にあたたかな灯をともす。そのぬくもり、そして人生の苦味や深み。監督のまなざしがなんともいえずあたたかく、哀しみさえも大きく包み込んでしまう。
色々な人たちの色々なエピソードが重なり、不器用だけれど愛おしい人間のおかしみややさしさが滲み出る。それぞれの家のインテリアにも個々の趣があって、33歳の男性が訪れる家など、深い赤と他の色の組み合わせが北欧らしい洗練を感じさせる。
我が家で過ごすクリスマス。帰れる家があること。待っていてくれる人がいること。心の奥にそっと灯をともす北欧の映画が、そのかけがえのなさを教えてくれる。
文◎多賀谷浩子(映画ライター)