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愛する妻を失い、新たな家に越してきた主人公ベンジャミンと二人の子どもたち。その家は普通の家とは少し違っていた。なんと閉鎖中の動物園が付いていたのだ。動物園の新オーナーとなった彼は、ライオンやトラなどさまざまな動物たちに囲まれながら、飼育員や子どもたちと数々のピンチを乗り越え、再オープンの日をめざす。
6月8日(金)より
TOHOシネマズ スカラ座ほか全国公開
『幸せへのキセキ』
監督:キャメロン・クロウ
出演:マット・デイモン、スカーレット・ヨハンソンほか
こんな物件があったら、あなたはどうするだろう。郊外の丘の上に建つ、ブルーグレーの外壁の一軒家。ただし、動物園付き。
映画『幸せへのキセキ』は、実際にそんな家を買い取り、閉園の危機にあった閉鎖中の動物園を再びオープンさせた実在の人物、ベンジャミン・ミーの実話をもとにしている。
ベンジャミンを演じるのはマット・デイモン。愛する妻を失い、 思い出の詰まった土地を離れる決意をした彼は、幾つもの物件を見て回る中で、この「運命の家」と出会う。もしもこの家を買わなければ、動物園のオーナーになることも、スカーレット・ヨハンソン演じる動物園の飼育員と信頼を深めることもなかったはず。新たな家が連れてきた新しい出会いが、彼の人生を変え、悲しみを抱えたベンジャミン一家の心を少しずつほぐしていく。
監督はキャメロン・クロウ。今年で55歳になるこの監督の作品は、いまだ少年の心を失わず音楽的。「ローリング・ストーン」誌のエディターだったクロウ監督は、選曲のセンスがいいことでも知られているけれど、私たちが人生の中で出会う理屈ぬきのときめき、たとえば、誰かに恋をしたり、何かに無性に惹かれたり…そんな高揚感を映像で表現するのがうまいのだ。この作品にも、プロでも難しい動物園の経営に借金を負ってまで乗り出そうとするベンジャミンの説明のつかないワクワクした気持ちが、やわらかな陽射しの中で絶妙に描かれているシーンがある。彼が亡き妻と初めて出会った時のことを子どもたちに話して聞かせる場面も素敵。人の心に音楽が流れる瞬間をこの監督はときめきと共に思い出させてくれる。
映画を見終わる頃には、大切な人と初めて出会った日のことを思い出すかもしれない。
文◎多賀谷浩子(映画ライター)