©2012「わが母の記」製作委員会
次第に記憶が薄れていく母・八重(樹木希林)を数十年にわたって見守る作家・伊上洪作(役所広司)とその家族の物語。伊上家の娘たちも華やかで、中でも男まさりの琴子(宮﨑あおい)が興味深く、色々な思いをぶつけあいながらわかりあっていく八重・洪作・琴子の三世代にわたる親子の絆が胸に沁みる。
『わが母の記』
監督:原田眞人
出演:役所広司、樹木希林、宮﨑あおいほか
『わが母の記』
DVD 3,990円(税込)
発売・販売元:キングレコード
この映画は、家にはじまり、家に終わる。はじまりは、1959年。年をとり、次第に記憶が薄れていく母・八重の姿を見守りながら、映画はある一家の歳月を数十年にわたって丹念に描いていく。
原作は井上靖の同名小説。井上靖を思わせる作家・伊上洪作を演じるのは役所広司だ。伊上家には女性が多い。シーンの端々を行き交う女性たちの活気が、この映画に独特の華やかさを添える。
今となっては懐かしい、胸当てのない白いエプロンをした洪作の妹・志賀子、着物を着て凛と家族を取り仕切る妻・美津、もう一人の妹・桑子が奔放な中にもどこか品を感じさせるのは昔ながらのワンピースのせいかもしれない…。女性たちの佇まいから昭和の風情がほのかに立ち上り、バッハの挿入曲がその世界を支える。
そんな、どこか香りの漂う作品世界を決定づけているのが、舞台となっている邸宅。撮影は井上靖が過ごした世田谷の自宅で行われたという。撮影の後に旭川へ移築したそうだが、家というのは家族を映すもの。長年、そこで豊かな暮らしが紡がれてきたのだろう言葉にしがたい温もりが、昔ながらの応接室や木目の質感に滲んでいて、心を満たす。とりわけ、ここで実際に数々の作品が書かれたという書斎の場面は、なにか宿るものを感じさせ、趣がある。
劇中には、世田谷の邸宅の他にも、洪作の両親が住む湯ヶ島の家、軽井沢の別荘など、それぞれに趣深い幾つかの家が登場する。八重の誕生日を家族で祝う川奈ホテルの場面もどこか優雅で素敵だ。
ラスト・シーン。「時計の音がいつもより大きく聞こえる」というフレーズが印象深い。新年を迎えるこの季節、昭和の大作家の家に息づく日本ならではの美しさに触れてみてはいかがだろう。
文◎多賀谷浩子(映画ライター)
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