©2013西加奈子・小学館/「きいろいゾウ」製作委員会
西加奈子の同名人気小説の映画化。監督は『ヴァイブレータ』など女性の繊細な心理描写に定評のある廣木隆一。野山に囲まれた田舎の古い一軒家に暮らすムコとツマ。出会ってすぐに結婚した二人には、ある秘密があった。ゆったりと時間を紡ぐ、丁寧な描写の中に、愛することの痛みや温もりが溢れ出す滋味深い作品。
2月2日(土)より新宿ピカデリーほか
全国ロードショー
『きいろいゾウ』
監督:廣木隆一
出演:宮浮おい、向井理ほか
透明に澄み切った映像のどこかに、いつも孤独が滲んでいる。映画を見るうち、そうか、これはツマから見た世界なんだと気づく。ツマというのは、宮浮おい演じる主人公夫妻の妻。名前の頭にも「妻」が付く。だから、ツマ=Bそんなツマの夫は、ムコ。こちらも名字が「武辜」と書いてムコ=B呼び名のとおり、どこかかわいい夫婦の物語だ。
ツマは、いきもののように五感の敏感な女性で、草木や動物とも話をすることができる。そして、心も体も圧倒的に月に支配されていて、満月が近づいてくると不安定になる。そのせいか、映画の中では人工的な黄色い月明かりが二人を照らして、どこか絵本の世界のよう。二人が食事するテーブルの上にも、月明かりに似た黄色い灯りがいつもやさしく輝いている。
目の前のことに全力で反応する純粋なツマが美しく、そして少し心が痛くなる。彼女は多くの人がするように受け流したりしないから。いちいち傷ついて、立ち止まってしまう。そんなツマを小説家のムコが穏やかに受けとめる。
この家が舞台でなかったら別の話になっていただろうなと思う映画は少なくないけれど、この映画もそう。三重県だけでも百件以上の中から探し当てたという数十年前に建てられた土間のある瓦屋根の民家。ムコのおじいさんが住んでいたというこの家が、物語の根底を静かに流れる、世代から世代へ命をつなぐ人間の奇跡を象徴してもいる。
ここ数年の宮浮おいは少女と大人の女性の間を変化していて、一作ごとに彼女の表情を見るのが楽しみなのだが、ここまで彼女の表情が作品を物語る映画も珍しい。細い糸のように繊細で、子どものように純真なツマの表情が、いつまでも心に残る。
文◎多賀谷浩子(映画ライター)