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今年のアカデミー賞で主要キャスト全員がノミネートされたことでも話題の1本。米「ピープル」誌の「世界でいちばんセクシーな男」に選ばれたこともあるブラッドリー・クーパーが繊細な演技で新境地を見せ、20歳で主演した『ウィンターズ・ボーン』の強いまなざしが印象的だった女優、ジェニファー・ローレンスが大人の女優の風格を感じさせ魅力的。
2月22日(金)よりTOHOシネマズシャンテほかにて全国公開
『世界にひとつのプレイブック』
監督:デヴィッド・O・ラッセル
出演:ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、ロバート・デ・ニーロほか
主人公は、ある出来事が引き金となって、人生の冬のさなかにいる男性。テーマからすれば、もっと重たい話になってもおかしくないが、センスのいい音楽とフレッシュなキャストのおかげで、リアルだけれど不思議な明るさとぬくもりのある作品に仕上がっている。
主人公・パットの心の支えは「エクセルシオール(より高く)」の標語。家を改装したての友人・ロニーは仕事や家族、色々なプレッシャーに押しつぶされそうだと漏らし、その家の壁には引き延ばされた肖像画のような巨大な家族写真が掛かっている。黒地に白い花模様が鮮やかな壁紙も、素敵だけれどちょっと肩に力の入った印象で、アメリカの人たちが抱える生きづらさを絶妙に描いた物語に、劇中のインテリアがさり気なく説得力を添えている。
この映画に好感がもてるのは、パットのような状態にある人の描写がステレオタイプに陥っていないこと。わかりやすくずっと暗いわけでもないし、劇的に何かが起きて主人公が救われたりもしない。家族や周りの人たちとの日常の小さな出来事の積み重ねで、少しずつパットが元気になっていく様子が、思わず笑ってしまうようなエピソードを織り交ぜながら描かれていて、ひとりでは抜け出せなくても、周りの人たちと交流するうちに、気づくと抜け出していることってあるよなぁ…と思わせる。
「いかにも」ではない真摯なまなざしと、日常を見つめる細やかな視点が混ざり合って、感じよく心に響く。パットが浮上していくのに大きな役割を果たすのが、ロニーの義妹のティファニー。彼女の存在が鮮烈で、目の覚めるような魅力がある。どんなにシリアスな時だって、笑いもあればぬくもりもある。それって私たちの日常と同じだな…と思わせる、真摯な1本。
文◎多賀谷浩子(映画ライター)