© Jean-Claude Lother/Why Not Productions
フランスの名匠アルノー・デプレシャンが監督・脚本を手がけた2008年の作品。独特の魅力を醸し出すマチュー・アマルリックをはじめ、フランスの巧い俳優たちが集まり、贅沢なアンサンブルが楽しめる。華やかに花火をあげながら、ヴュイヤール家の面々が庭先で楽しむクリスマス・パーティーの場面では、フランス映画ならではの人生の美しさに酔わされる。
『クリスマス・ストーリー』
監督:アルノー・デプレシャン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、マチュー・アマルリック、アンヌ・コンシニほか
『クリスマス・ストーリー』
DVD 5,040 円(税込)
発売元:ミッドシップ
販売元:紀伊國屋書店
家族や親戚が一同に会すると、皆それぞれに色々な思いを抱えるもの。フランス・ルーベの街にある瀟洒な邸宅に集まった、ヴュイヤール家のクリスマス。その数日間を描いたこの映画にも、そんな家族の思いが見え隠れする。
一家に影を落としているのが、幼くして亡くなったこの家の長男・ジョセフの存在。その影響を色濃く受けているのが、次男の問題児・アンリ。長女のエリザベートが彼を毛嫌いしていることが、家族皆の気がかりだ。
そんな状況下、カトリーヌ・ドヌーヴ演じる母・ジュノンが重い病であることが判明し、父・アデルが3人の子どもたちとその家族、親戚一同を集めることに。久しぶりに顔を合わせた大勢の人々。それぞれの人となりが、何気ない局面のちょっとしたやりとりの中に映し出され、徐々に家族間の関係性が見えてくる。細やかなエピソードが幾重にも重なり、どこの家にもある行き違いや、その家ならではの親子の距離感…言葉にしがたい家族のかたちが浮かび上がっていく。
そんな作風と同じく、邸宅にも細やかな魅力が溢れている。フランスならではの中間色の壁紙が美しい客間やリビング、グレーと白の市松模様がおしゃれなキッチン…色彩の組み合わせがモダンで一部屋ごとにうっとり。母・ジュノンが少しずつ住みよくしてきたというこの家の所々に、深刻な病のことでさえ、子どもたちにはクールにふるまう彼女の洗練と成熟が感じられる。
物語の中心をなすのは、そんな母・ジュノンと次男・アンリの関係。二人の印象的なやりとりの数々、そしてラストシーン。2時間半にわたって繊細に折り重ねられた、一筋縄でいかない家族模様が心に染みる。
文◎多賀谷浩子(映画ライター)