2025 年は、世界の芸術・文化に今なお大きな影響を与え続けている絵師・葛飾北斎の筆跡を集めました。2024 年7月に発行された新千円札の裏面には、代表作の一つ「神奈川沖浪裏」が採用され、日本のパスポートの査証欄では「冨嶽三十六景」の作品が既に使われています。アメリカのフォトジャーナル誌「LIFE」が1998 年に行った「この1000 年で最も重要な功績を残した世界の100人」という特集で、日本人でただ一人選ばれたのが北斎でした。
北斎は1760 年江戸に生まれました。18 歳（1778 年）のとき、浮世絵師勝川春章に入門。勝川春朗の名で世に出ます。師匠の没後、勝川派を破門されると琳派から宗理の号で登場。独自の様式を確立しますが、1798 年琳派からも独立。北斎辰政（ときまさ）を名乗り、流派に属さないことを宣言します。全国に北斎の絵を学びたいという門人が増えたため、絵手本作りに精を出します。
1814年北斎が名古屋の門人宅に逗留し、描いた300 余の下絵を版元が出版。それが世界的に有名になる絵手本「北斎漫画」初版です。70歳を過ぎ、様々な角度から富士を描いた「冨嶽三十六景」は、ジャポニスムに沸く欧米で熱狂的な反応を引き起こしました。平均寿命が50 歳に満たない江戸時代、肉筆画を描くため、80歳を過ぎて信州小布施と江戸を4 度も往復。自ら調合した長寿薬を飲み、数え9 0歳まで絵を描くためだけに生きた人でした。本年は北斎に影響を受けたクロード・モネ、エドガー・ドガ、パウル・クレー、3人の画家の月を作り、北斎の作品と比べながら、彼らの筆跡もお楽しみいただけます。