
プロフィール
栗原潤一さん
ミサワホーム株式会社 技術顧問担当。ミサワホーム総合研究所・取締役副所長を経て、現在に至る。省エネ・断熱・自然エネルギー利用の研究開発、日本初のZEHの商品化に携わり、地球や地域に配慮して快適に健康維持できる住宅の普及などに取り組んでいる。博士(工学)、一級建築士、SHASE技術フェロー。健康住宅アドバイザー。
セカンドライフコラム 第3回
「セカンドライフの健康」というと、真っ先に思い浮かぶのは「運動」や「食生活」でしょう。しかし最近では、健康寿命を延ばすうえで「住まい」が果たす役割も大きいことが、科学的に明らかになってきました。そこで、住まいが果たす「健康」への役割について、ミサワホームの技術担当顧問・栗原潤一さんに伺いました。
プロフィール
ミサワホーム株式会社 技術顧問担当。ミサワホーム総合研究所・取締役副所長を経て、現在に至る。省エネ・断熱・自然エネルギー利用の研究開発、日本初のZEHの商品化に携わり、地球や地域に配慮して快適に健康維持できる住宅の普及などに取り組んでいる。博士(工学)、一級建築士、SHASE技術フェロー。健康住宅アドバイザー。
国土交通省が2019年に発表した研究結果によると、断熱性を向上するリフォームをした住宅に住む人の健康状態は、リフォーム前に比べて大きく改善していました。たとえば、最高血圧が平均3.5mmHg低下したほか、総コレステロール値、心電図の異常所見、高血圧や糖尿病など、健康診断の結果にも大きな違いが出ていて、住まいを暖かくするだけで健康状態が改善することがわかっています。
私は長く、住宅の省エネルギーや断熱の研究に携わってきました。日本は冬寒く夏暑いという、住宅造りには非常に難しい気候です。先人たちは古くから日本の住宅は、夏を涼しく過ごすことを重視した造りになっており、冬を暖かく過ごすための断熱機能は十分ではありませんでした。そのため、住む人、特に高齢者の健康に、大きな影響を与えてきました。
少し前のデータになりますが、東京都健康長寿医療センター研究所の研究によると、2011年の1年間で約1万7000人が「ヒートショック」に関連して入浴中に急死したと推計されており、同じ年の交通事故による死亡者数(4611人)をはるかに上回っています。
ヒートショックとは、温度の急激な変化により、血圧が上下に大きく変動することで起こる冬場に多い健康被害で、心筋梗塞や不整脈、脳梗塞に至る場合もあります。
暖かい居間で過ごしていた人が寒い脱衣室で洋服を脱ぐと、急激に体の表面の温度が下がって血管が収縮し、血圧が一気に上がってしまいます。さらに、そこから熱い湯船に入ると血管が急に拡張し、血圧が急激に低下、長時間入浴も脱水症状を起こし、失神しておぼれてしまうこともあります。
お風呂は41℃までで10分程度の入浴が推奨されています。
また、お風呂以外にも、冬は暖かい寝室から寒い廊下やトイレへの移動などでもヒートショックのリスクがあります。しかし住宅の断熱性能を上げ、寒暖差を解消することで、ヒートショックは防ぐことができます。
セカンドライフのリフォームでは、バリアフリーを意識する方が多いと思いますが、ぜひ、「段差」だけでなく「暖差」を解消する断熱リフォームも考えていただきたいと思います。
リフォームは水廻り、特に浴室を先行して行うことも多いので、その際に「暖差」解消も一緒に考えるとよいでしょう。たとえば、浴室内の洗い場や脱衣室の床に、冷たく感じにくい素材を選ぶ。体は暖かくても、足先が床に触れて「冷たい」と感じるだけで、血圧が上昇してヒートショックを引き起こすことがあるからです。洗い場や脱衣室の温度を保つ工夫も重要です。エアコンを利用するなどして、脱衣室や洗い場を暖かくしてから入浴できるようにしてください。
住宅全体でみると、断熱性に直結するのは窓です。1枚ガラスをペアガラス(複層ガラス)に交換すると、断熱効果が大幅に向上します。サッシを取り換えるのが大変な場合は、既存サッシの内側に内窓を設置してもよいでしょう。いずれも、室温を暖かく保つ効果があり、結露も防げます。
天井や壁、床などに断熱材を付加する躯体断熱リフォームを行えればより効果は高まりますが、暖差解消の変化を特に感じやすいのは床です。床暖房の併用が理想的ですが、床を冷たく感じにくい、タイルカーペットや絨毯などの素材に変えるだけでも効果があります。
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また、すぐにできる方法としては、カーテンレールの上に布などをかけてすき間を覆うだけでも暖かい空気を冷やさず、足元の冷気を減らし寒暖差を抑えることができます。
家の中の暖差がなくなり、全体が暖かくなると、それだけで自然に活動的になるので、健康を維持し、健康寿命を延ばすことにもつながります。
家全体で断熱リフォームを行うことが難しければ、ふだん過ごす時間が長い場所だけでも実施するとよいと思います。間取りの変更が可能であれば、居間、お風呂場、トイレ、寝室を一つのエリアとして区切り、その範囲だけでも温度差を小さくすると、生活上の暖差が解消できます。断熱リフォームについては、国の補助金制度もありますので、活用を検討してみてください。
健康寿命を延ばすためには、住宅の「寒さ」をなくすことが大切です。世界保健機構(WHO)も、2018年に出した住宅と健康に関するガイドラインの中で、室内温度は18度を保つよう強く推奨しています。健康寿命を延ばすためにも、また、体が弱っても快適に生活できるようにするためにも、住まいの断熱を考えていただきたいと思います。