「整理・収納・整頓・片付け」の順番がベスト
――おさよさんが、仕事でお客さまの家に伺ったとき、キッチンの片付け・収納で、失敗しないための方法や手順についてお話されることがあれば教えていただけますか。
おさよさん:部屋を片付けようとしたときにありがちな失敗例として、「収納グッズを先に購入してしまう」ということがあります。雑誌やテレビの特集でよく目にする便利収納グッズも、購入を決めるのは、最初の段階では避けてください。
まずは、モノの「整理」です。片付けたい場所にあるモノを、要るモノと要らないモノに分けます。
次に「収納」。モノの住所決めです。
そして「整頓」。これは、見た目を整えること。より取り出しやすいようにケースで仕切ったり、色別に並べたり、インテリアにマッチする収納の状態へ整えていきます。この最後の仕上げ作業で、ようやく収納グッズが登場します。
「片付け」とは、整理、収納、整頓で整えたモノたちを使った後、元の住所に戻すことです。日々の「片付け」がスムーズに終わるキモは、整理、収納、整頓の作業にかかっています。手順を正しく覚えておくことで、無駄なグッズを買うことが減って、余計な時間がかかることも防げます。
ケースの中をさらにケースで仕切ることで、目的の物がサッと取り出しやすく、残量も一目瞭然。
オープンタイプの収納スペースこそ、その空間のインテリアにマッチするような色味の収納ケースで整頓。
「モノの定位置決めがわからない」 という声が多い
――一般の方から「キッチン収納の悩み」は多く寄せられていますか?みなさんはどのような点に悩まれているのでしょうか?
おさよさん:みなさんのお悩みの多くは、「モノの定位置決めがわからない」や「モノが取り出しづらい」、「探しものが多い」、それから「乾物類の期限を忘れがち」や「掃除が面倒くさい」、あとは「スッキリしたキッチンにしようとして、全部引き出しなどに収納すると、作業効率が悪くなる」などです。
キッチンは重たい鍋や、輪ゴム、家電等、種類の異なるモノがあるので悩んで当然ですね。
――なるほど、私も思い当たるフシがあります。ではキッチン収納のコツや、取り組み方をお聞きしたいです。
おさよさん:キッチンは「作る」と「片付ける」を同時に行うので、まず作業動線を考えることが重要ですね。それから、モノを取り出すまでのアクション数を意識して、置く位置を決めてみてください。
キッチン全体のモノの配置決めを、4つのゾーンに仕分けていきます。火のゾーン、水のゾーン、ゴールデンゾーン、キッチン以外のゾーンです。
火のゾーンとはコンロ周辺。コンロを使うときに関連するお鍋、フライパン、油、調味料などでまとめます。
水のゾーンはシンク周辺、水を使うときに関連するまな板、包丁、ボウルやザルなど。
ゴールデンゾーンとは、前回もお話しましたが、使う人の腰から胸くらいまでの高さの最も使いやすい収納スペースのこと。ここにぜひ収納して欲しいのが、期限が決まっている乾物類になります。
キッチン以外のゾーンは、必ずしもキッチンに収納しなくていいモノはないか、一度キッチンのモノを見直してみてください。収納は8割がベスト。少しスペースに余裕がある方が取り出しやすくなります。
例えば、年に一度しか出番のない季節のモノ、飾り付けのモノや寿司桶、梅を漬ける大きい密閉瓶などキッチン以外の空いたスペースに収納しても、取り出すのは年に一度なので、寝室の空いたクロゼット等を活用してもOKです。ホットプレートや卓上ガスコンロをキッチンに収納している方も見かけますが、使うのはダイニングです。ダイニングの収納を定位置にした方が使い勝手が良いです。
モノが多く作業効率が求められるキッチンだから、料理に関連するモノでも、必ずしもキッチンに全部収納する必要はあるのか?あえてキッチン以外にある方が便利なモノはないか?など、視野を広げてキッチンのお片付けに取り掛かることをオススメしています。
ミサワホーム リフォーム事例/
豊富な収納量・ダイニング側の収納
ミサワホーム リフォーム事例/
通り抜けられるパントリー・備蓄を持ち出しやすく、保管しやすい
困っていること、改善したいことをリストアップ
――家のリフォームを考える際、キッチンの収納をより効率よくするためのコツを教えてください。
おさよさん:収納を増やせば使いやすくなると言う訳ではありませんが、キッチンのリフォームをお考えの方は、リフォーム前に現状の困っていること、改善したいことをリストアップしてみてください。なぜ、それに困っているのか、原因まで明確にしておくとリフォームのプランニングが上手くいきやすいです。
例えば「食器が取り出し辛く、お気に入りのお皿をよく割ってしまう、食事の準備に時間がかかる」が困りごとなら、原因は「背が低く、食器棚の上の方のお皿は取るのが危ない。食器が好きで多いので、使いたいお皿を探すのに時間がかかるため」だとします。この場合、棚式の食器収納ではなく、引き出し収納に変更された方が、背の低い奥さま向き。量が多いなら引き出しの場合、立てる収納で片付ければ食器を一覧できるので、探すのに時間がかかる問題も解決します。
このように悩みや原因を知ることで、どんなリフォームを必要としているかが見えてきます。
そしてキッチンのモノの整理。食器、キッチンツール、調味料、鍋、家電など、カテゴリーごとにどれくらいの量を現在使っているのか、物量を把握することも、リフォームの参考になるので、ぜひ整理も忘れずにリフォーム前に1度取り掛かってください。
食器は引き出しに立てて収納すると、目的のモノを取り出しやすく、食器が多い方にオススメ。
キッチンツールはコンロ周辺に置くと掃除が大変なので、使うときにツールスタンドごと取り出してコンロへ。
「なんのために片付けるのか?」という目的意識
――「モノが捨てられない」という方の、お悩み・質問に対してアドバイスをお願いします。
おさよさん:みなさん、ただ漠然と「散らかっているから片付けなきゃいけない」と思っていて、片付けられない自分を責めて、ご相談される方が多いです。
いま子育て真っ最中の30代から40代の親たちは、小さい頃に「片付ける」こと自体を、学ぶものとして捉えられることがなかった世代でした。「片付ける」方法を教わらないまま、学校でもご家庭でも「片付けなさい!」とただ怒られた…という記憶しかないので、“散らかしてしまった→悪いことだ…→片付けなきゃ”、の思考回路が定着してしまっています。ようやく現在の日本の教育では、家庭科の授業に「お片付け」が取り入れられるようになりましたが、つい最近のことです。でも、まだまだその内容は足りていないと感じています。
片付けるその前に、「なんのためにするのか?」の目的意識がとても重要になってきます。ぜひ、漠然と「片付けなきゃ…」ではなくて、片付けた後の、その先の未来を想像して目的を持って取り組んで欲しいです。
オススメは、家の中で不便に感じている悩みを挙げてもらうことです。例えば、「朝、出勤時間が早く、毎日準備でバタついて、忘れ物ばかり」ならば、未来は「余裕を持って準備ができて、忘れ物をしない、忙しい朝でも心に余裕をもって1日をスタートできる暮らし」を想像する。これが片付けるための目的になります。
できれば、もっと細かく具体的に、なりたい未来を想像してみてください。「通勤時間が長いので、コーヒーをマイボトルで持参できれば駅の自販機で買わずに済むから節約にもなっていいな」「洋服選びで迷って同じ服ばかり。お洋服が好きだからもっと毎日のコーデ楽しみたいな」とか。朝起きて家を出るまでの1日の理想の流れを想像してみてください。
会社の書類を忘れない通勤セットをまとめておいたり、マイボトルを準備するセットをコーヒーメーカーの隣に収納したり、前日にコーデを決めてハンガーをかけておく場所を設けるなど、片付け方法も片付けたい目的に合わせて決めやすくなりますし、目的が明確だと、漠然と「片付けなきゃ」よりも、やる気が出て作業がスムーズになる方が多いです。
お子さんにも「片付けなさい」ではなくて、「片付けたおかげで、広々とした机で大好きなお絵描きが目一杯できるね!嬉しいね。色ペンも探しやすくてますますお絵描きが楽しくなるね!」など、片付けによってもたらされる、ポジティブな結果の声掛けを日頃からしていただくことをオススメしています。
片付いた状態の写真をケースに貼り付けて、パズルみたいにゲーム感覚で子どもに使ったものは片付ける。片付けあそびを取り入れるのもオススメ。
明日着る服を寝る前に掛けておく場所があれば、コーディネイトに朝から悩まない。
ローリングストックの大事な4つのポイント
――災害対策として備蓄しておいた食品(水・カンパン など)のストックが、使わずにキッチン廻りでそのままになってしまう、なんてことは多いと思われます。その際に、「ローリングストック」の考え方はオススメですか?
おさよさん:ローリングストックは、我が家でも実践しています。整理、収納、整頓を行う中で、散らかった部屋へとリバウンドしないように、4つのポイントを提案しています。
まず、適正量の決定です。
これは、ライフスタイルに合ったモノの持ち方を決めることです。ボウルとザル、便利だからって、つい持ちすぎていませんか?フライパンや鍋も、全然出番のないモノはないですか?ラップやアルミホイル、必要だからといって大量にストックしすぎていませんか?整理収納に向き合うと、この適正量がご家庭に合う量にバシッと決まっていくので不思議です。
次に、グルーピング収納です。
これは、ひとつの仕事をするモノを、グループとみなして一緒に収納することです。例えば、朝のコーヒータイムに必要になるモノ(コーヒーカップ・ミル・コーヒーメーカー・コーヒー豆・シュガー・ティースプーンなど)をひとつのトレイに乗せて、そのまま食器棚にグルーピング収納しておくと、忙しい朝、そのトレイをさっと出すだけで、必要なモノを用意することができます。
料理のたびに使うものなので、ボウルとザルはオープン収納に。使用頻度の高いものは、あえてしまわないのもオススメ。
洗濯物の手入れをするグッズをカゴにまとめています。毛玉カッター、粘着ローラー、飛び出ている糸を切るハサミなど。
そして、ストックローテーションです。 よく使うモノをキッチン内に一定量ストックし、ひとつ使ったらひとつ補充することです。例えば、オリーブオイル。「2本ストックし、1本使ったら1本補充! 」のように管理することで、常に食材を切らすことなく使うことができ、使いながらその家庭の「適正量」もわかってきます。災害時の備蓄にもなります。
――リフォームされたときに、パントリーを作られたそうですね。どのように活用されていますか?
おさよさん:我が家はあえて日頃から食品を取り出すパントリーに災害用の備蓄を収納しました。頻繁に取り出すモノではないですし、クロゼットの奥のデッドスペースなどに備蓄されている方も多いと思います。その結果、知らない間に期限が切れていたという方も多いです。毎日使う場所に災害用備蓄をすることで、自然と期限や足りないモノなど、普段から災害用備蓄のことを意識しやすいです。パントリーの使いづらい奥のスペースを利用していますが、容器のいつも見えるところに期限をラベリングし、常に確認できるような収納で備えています。
他にも缶詰や乾麺、おかゆなどの食材もパントリーを作ったことで、ローリングストックができるようになりました。災害の多い昨今、お家の中に安心できる収納を作ることは、普段の暮らしの安心にもつながります。
――災害用の備蓄品は目の届かない場所に置いてしまいそうなので、ぜひ参考にしたいです。続いては4つ目のポイントですね?
おさよさん:はい。最後に、使用頻度別収納です。
これは、モノを使用頻度ごとに分け、よく使うモノから収納場所を決めることです。収納場所を決めるときは、使用頻度の高いモノから使いやすい位置(壁面高さに対して「中→下→上」の順)に。例えば、食器棚なら、毎日使うお茶碗などは一番使いやすい「中」の位置。週に数回使用するモノなら「下」に、滅多に使わないモノは「上」に収納します。
毎食使う使用頻度の高いお茶碗、汁椀、サラダボウルなどは食器棚の取り出しやすい中央に配置。あえてオープン収納にしてトレーに乗せ、食事の準備は1アクションで完成。
いつも買い足す食材は使った分を買い足すストックローテーション。缶詰類や袋麺、賞味期限の長い食材を、そのように管理していけば災害時の備えにもなります。
引き出しはモノの配置を工夫してより使いやすく
――これまでご紹介した以外で、具体的なキッチンの収納例として分かりやすいものがあれば教えてください。
おさよさん:引き出しにはファイルボックスと仕切りスタンドが一番使えます。吊り戸棚は取り出しやすさを考えて下の方に取っ手のあるケースが便利です。こちらは取っ手や手を引っ掛けて引き出すタイプなど、実にさまざまあります。
オススメなのは、柔らかい素材のもの。万が一落としたことを考えてソフトボックス、紙製にするなど。特に小さなお子さまがいるご家庭は最適だと思います。収納内に高さがありスペースがある場合は、ケースにケースを重ねて使えるグッズが良いですね。
リフォームしたお宅のほとんどが、引き出し収納で便利そうに見えながらも 、広さや、深さがあって収納に悩むケースが多いです。引き出しは前後、左右のモノの配置を意識するだけでも、ずいぶん使いやすい収納に生まれ変わります。
シンク下の深さのある収納は、立てる収納が良いです。ファイルボックス、仕切りスタンドなどで仕切って立てて収納しやすくします。
扉の裏を活用して、よく使う洗剤スプレー、ポリ袋など収納するのも、少し開ければサッと取り出しやすいのでオススメです。ケース内のものがゴチャつかないように、仕切りクリップやブックスタンドの活用もとても便利です。
高い位置の収納は取っ手が太くてしっかり握ることができるケースや、万が一落としたときも安全な角ばっていないモノを使う。
シンク下の収納例。よく使う袋や洗剤の収納は扉裏も活用し、作業効率を考えて定位置を決めていきます。
浅い引き出しは基本、寝かせる収納。コンロ側に調味料類、シンク側にスポンジなどを収納。よく使うものからあまり使わないものが前後にグラデーションになるようなイメージで配置を考えます。
深い引き出しは立てて収納がオススメ。立てやすいようにファイルボックスで仕切ります。牛乳パック、仕切りクリップなどの合わせ使いがオススメ。
――これからリフォームを検討されている方へのアドバイスもお願いします。
おさよさん:これからリフォームされる方には、今の状況を写真で撮影したり、整理で家にあるモノの量を把握したり、 現状を見つめた上でお片付けと同じように、リフォーム後の理想の暮らしを想像して未来に期待しながら楽しんでプランニングして欲しいです。
整理収納アドバイザー、整理収納教育士、掃除技能検定士、片づけ遊び指導士認定講師。
福岡県在住。中学2年生の長男、小学5年生の長女の母。
近著『スッキリ公式本 収納のおさよさんが教えるキレイが続く片づけ』(セブン&アイ出版)
『おさよさん流 がんばらなくてもキレイが続く家事の工夫』(SBクリエイティブ株式会社)整理や収納、掃除などの独自の方法を紹介したInstagramが話題。テレビや雑誌などでも活躍中。
2000年、東洋英和女学院大学卒業後、共同テレビに入社。
フジテレビアナウンス室に出向し、「プロ野球ニュース」「すぽると!」「ゴルフ中継番組」などスポーツ番組を中心に担当。
06年より米女子ゴルフツアーに挑戦する宮里藍の密着取材を開始し、著書「最高の涙ー宮里藍との一四〇六日」(幻冬舎)を出版。
08年に共同テレビを退社し、フリーアナウンサーに。現在、テレビやラジオなど様々なメディアで活躍。