生活スタイルに合わせた寝室づくり
――まずは、個人の生活スタイルに合わせた快眠を促す寝室づくりのコツを教えてください。
友野さん:まず、朝起きる時間を一定にすること。それから、自然な光で目覚めることが快適な覚醒を促すため、遮光カーテンの代わりにレースカーテンを使用することをおすすめします。外界が明るくなるに伴い、寝室内が明るくなる漸増光による目覚めは、目覚め感の向上、起床時の眠気の減少、熟眠感の改善、注意集中感の上昇が認められています。遮光カーテンを使用して朝日を完全にシャットアウトする行為は、快適な覚醒を妨げるといえます。レースカーテンだけにすることで目覚めが良くなるという報告もあります。
夜にお仕事をされている方は、明るい環境の中で就寝する必要がありますね。その場合は遮光カーテンなどを使って寝室を真夜中に近い環境にすると良いです。夜勤を含む交代勤務で働く方にとっては、遮光カーテンは快眠と健康の強い味方となります。
また、セキュリティ上の理由でカーテンを開けて眠ることが難しいという方もいるでしょう。そういった場合は、カーテンは閉めたまま就寝し、光で目覚めを促してくれるアイテムや、アプリで設定した時間になるとカーテンを静かに開けて光で気持ち良く起こしてくれるスマート家電を活用すると良いでしょう。もし現在遮光カーテンを使用している場合には、10cm程度の隙間を作り、朝には光が差し込むようにしておくことがポイントです。
「昼寝=パワーナップ」の効果と上手な実践方法
――お昼寝の効果と上手な実践方法についてお聞かせください。
友野さん:人は体温が下がると眠くなるメカニズムがあり、ちょうど14時~15時前後は体温が下がるため眠気が強まる時間帯です。このような眠気の強い時間帯は「ナップゾーン(昼寝帯)」と呼ばれており、地中海沿岸や南米などでは「シエスタ」と呼ばれる昼寝の習慣があります。シエスタの習慣はなくても、この眠気のピークをやり過ごす手法としてアメリカではコーヒーブレイク、イギリスではアフタヌーンティー、日本ではおやつの時間があり、古今東西問わずこの時間帯は眠気が強くなることが分かります。
巷ではよく「お昼ごはんを食べたから、消化のために胃に血液が集まり脳の血液が少なくなるから眠くなる」と言われていますが、実はそうではなく、体温のリズムや体内時計が午後の眠気には関係しています。体温が一時的に下がることによって発生する「ポストランチディップ」と呼ばれる時間帯と、ランチを食べてお腹が満たされたことで覚醒作用のあるオレキシンの放出が減ることがランチ後の眠気を誘発しています。ランチを食べた後に眠気が強まる現象は人間の生理的メカニズムとして極めて正常なことなのです。従って、ランチを食べ終わった後の昼休みの時間を使って昼寝をとることが、働いている方にとって物理的に現実可能な時間帯であり、かつ、ベストな時間帯といえます。
――午後に眠くなるのはそういう理由があったのですね。日本の企業で働いている方にとっては、まだ抵抗があるように思います。
友野さん:そうですね。残念ながら日本では習慣としての昼寝は根付いておらず、「昼寝=サボリ」という考えがまだ多く見られます。でも、昼寝は正しくとることで体内時計を乱すことなく睡眠負債の返済をサポートでき、さまざまな健康効果があることも科学的に証明されているんです。例えば、昼寝は気分の改善や眠気の除去、脳の疲労を軽減し、パフォーマンスの向上に役立ちます。認知症の発症リスクを5分の1以下に軽減し、心臓病死のリスクを37%低くすることも分かっているので、もっとお昼寝が定着してほしいですね。
襲ってくる眠気と戦おうとガムを噛んだり、冷風に当たったり、タバコを吸ったりしている方も多いですが、これらの方法は主観的な眠気を減らす効果はあるものの、一時的なもので能率を向上させる効果はありません。潔く昼寝を習慣化するほうが午後の生産性が高まり、健康レベルも向上するというのが私の考えです。
お昼寝については、ただ寝ればいいわけではなく、守るべき3つのルールがあります。まず、昼寝は15時までにとること。15時以降にとるとその日の夜の睡眠に悪影響を与えるためです。次に、昼寝の時間は15~20分程度にとどめること。60歳以上の方は30分程度が適しています。長時間の昼寝は睡眠が深くなり目覚めにくくなるため、30分以上の昼寝は避けましょう。最後に、昼寝は横にならずに椅子やソファに座った状態で行うことが理想的です。横になると深い睡眠に入りやすくなります。
たった15~20分の昼寝ですが、その後の眠気をすっきりと除去し、午前中の脳の疲労回復を促し、作業能力が改善されることが報告されています。実際、アメリカでは昼寝のことを「パワーナップ」と呼び、脳と体にパワーを取り戻すビジネススキルとしてエグゼクティブたちに広く浸透しています。
――なるほど。短い時間でも十分効果的なんですね。ぜひ多くの企業で広まってほしいです。
昼寝の効果
入眠前の活動とスリープセレモニーを取り入れる
――入眠前の活動についてポイントやアドバイスをお願いします。
友野さん:眠れない人ほど「眠ろう」とする意気込みが強く、それがかえって頭を冴えさせてしまうことがあります。ハーバード大学の心理学者ダニエル・ウェグナーの実験では、「白くまのことを考えないように」と指示された参加者が、白くまのことを考えないようにすればするほど、頭の中で白くまの存在が大きくなることが示されました。過度な意気込みは覚醒度を高めて寝付きにくくなるため、自然に睡眠モードに移行するための「スリープセレモニー(入眠儀式)」を習慣化することがおすすめです。
これは「パブロフの犬」の実験で示された条件反射のように、人間にも応用できる手法です。スリープセレモニーは「眠るための条件付け」として働き、続けていると「これをやると眠くなる」というパターンが脳と身体に刷り込まれ、自然と眠くなるようになります。具体的には、パジャマに着替える、アロマを嗅ぐなど、シンプルで簡単な習慣を取り入れることがポイントです。シンプルな内容のほうが旅先や出張先でも実践しやすく、どんな環境でも自分で眠りスイッチを押すことができます。
また、スマートフォンを使用するような光の刺激や激しい運動は避けましょう。例えば、息を吸いながら全身に力をぐっと5秒ほど入れて、息を吐きながら5秒ほどかけてすぅーっと力を抜く筋弛緩運動をおすすめします。場所をとらずにできる快眠促進運動で、スリープセレモニーの一環として最適です。すぐにできる簡単な筋弛緩運動がありますので、ちょっとやってみましょう。
こうしたスリープセレモニーのように心理的な効果を利用して寝付きやすくする方法に加え、入浴などの生理的な効果も併用することで、さらにスムーズに眠りに入ることができるでしょう。
――短時間でもリラックスできる睡眠のコツなどあれば教えてください。
友野さん:手軽にできることとしては、深呼吸、足浴、軽いストレッチ、6分間の読書、マッサージが特に効果的です。
深呼吸は副交感神経を活性化させ、身体全体をリラックスモードに導きます。足浴は血行を改善し、温かさが身体全体にリラックス感をもたらします。軽いストレッチは筋肉の緊張を解きほぐし、身体をほぐすことでリラックス効果を高めます。6分間の読書は心を落ち着かせ、頭をリセットするのに最適です。さらに、マッサージは筋肉のこわばりを解消し、深いリラクゼーションをもたらします。
これらのテクニックを組み合わせることで、短時間でも心地よいリラックス効果を得られ、質の高い睡眠に繋がるでしょう。今日からでもできると思いますので、ぜひ毎日の習慣として続けてみてください。
ちょっとした工夫で快眠を得られる寝室づくりのコツ
――寝室で読書や音楽鑑賞を楽しむ人が、快眠を得るための寝室づくりのアドバイスをお願いします。
友野さん:寝室はあくまでも眠ることに集中する場所と考えましょう。寝る前の読書は寝室以外の場所で行うのが理想です。音楽は、自然界の音色やヒーリング音楽、オルゴールの音色、静かなクラシック曲を聴くことがリラックスを促し、快眠につながります。ただし、就寝中は無音が最も良いので、音楽を流す場合はタイマーをセットして1時間以内に切れるようにしましょう。ボリュームはかすかに聞こえる程度のボリュームで再生し、「聴く」というより「聞こえる」というぐらいの感覚で考えたほうが良いでしょう。
寝室の照明も重要なポイントです。就寝前には明るすぎない照明を使用し、リラックスできる環境を整えましょう。寝室の照明は、暖色系のライトを選び、リラックスした雰囲気を作り出すことが大切です。間接照明を活用することで、柔らかい光が部屋全体を包み込み、心地よい眠りへと導きます。
リラックス効果のある香りを用いるのもいいですね。アロマディフューザーやピローミスト、アロマパルスなど、いろいろなスタイルで香りを楽しめますので、お好みのやり方で良いと思います。
他には、暖かい空気と冷たい空気が循環するようにサーキュレーターを活用するのもおすすめです。先ほどご紹介した筋弛緩運動などを実践して、 全身を効率的にリラックスさせることも、ぜひやってみてほしいです。
知っておきたい、生活スタイルに合わせた快眠テクニック
――なかなか生活習慣を変えられない人に向けて、簡単にできる快眠テクニックを教えてください。
友野さん:簡単にできる快眠テクニックとして、まず起床後に15秒間空を見上げて自然光を浴びるようにしましょう。これにより、体内時計がリセットされ、目覚めが良くなります。寝るときには専用のパジャマを着用することで、身体が「眠る時間だ」と認識し、リラックス状態に入りやすくなるでしょう。
また、睡眠デバイスを活用して自分の睡眠状態を可視化し、改善点を見つけることができます。デバイスのデータを元に、適切な睡眠環境を整えましょう。これらの簡単なテクニックを取り入れることで、快眠を実現しやすくなります。
――高齢者と同居している場合、高齢者の睡眠の質を高めるために、生活スタイルの観点から住環境でできる工夫はありますか?
友野さん:高齢の方は音に敏感になりますので、大きな音に気をつけて過ごすことですね。例えば、テレビの音量を下げる、ドアの開閉音を小さくするなどの工夫が有効です。
また、30分以上の昼寝を避け、15時以降に眠らないようにすることで、夜間の睡眠の質を保つことができます。日中は人に会ったり、散歩をしたりして、活動的に過ごしたほうが良いでしょう。一般的に高齢者は加齢とともに自然に睡眠が浅くなることが多いため、この現象を家族が十分理解し、あまり心配しすぎないようにして、不安を和らげることも大切です。
――赤ちゃんや妊婦さんがいる家庭で、より良い睡眠環境を作るために気をつけるべき点はありますか?
友野さん:妊婦さんや赤ちゃんがいる家庭では、夜中に起きることが多いため、寝室の床に物を置かず、スムーズに移動できる環境を保つことが大切です。
また、朝と昼間は明るく、夜は暗くすることで、自然な睡眠リズムを保つことができます。赤ちゃんにはやや硬めのマットレスを使用し、安全な睡眠環境を提供しましょう。妊婦さんには抱き枕を使用して寝姿勢を安定させ、快適な睡眠を確保しましょう。さらに、妊婦さんの場合は、シムスの体位を取り入れることが推奨されます。シムスの体位は、左側を下にして横になる姿勢で、血流を良くし、体の負担を軽減します。こうした工夫を取り入れることで、妊婦さんや赤ちゃんの睡眠の質を高めることができます。
リフォームで押さえておきたい寝室づくりのポイント
――寝室のリフォームを検討している人に向けて、絶対に押さえておきたい快眠を促す寝室づくりのポイントを教えてください。
友野さん:快眠を促す寝室づくりのポイントとして、まず寝室に太陽の光が差し込むように窓をつくることが重要です。自然光を採り入れることで、体内時計を整え、快適な目覚めを促します。可能であれば断熱性や結露への備え、防音対策として二重窓を選ぶとよいでしょう。
また、壁紙は真っ白やコントラストの強い色を避け、淡い色合いを選ぶことで、リラックスした雰囲気を作り出すことができます。落ち着いたクリーム色やブルー系の色が、どんな方にも好んでいただけるのではないでしょうか。これにより、寝室全体が落ち着いた空間となり、快眠をサポートします。
リフォームを検討する際には、予算を考慮しつつ、遮光カーテンの使用や快適なマットレスの選定、適切な室温と湿度の維持など、快眠を実現するために必要な基本的な要素を押さえることが大切です。これらのポイントを参考に、生活スタイルに合わせた快眠術と寝室リフォームを実践して、より良い睡眠環境を整えましょう。
睡眠コンサルタント、株式会社SEA Trinity代表取締役。自身が睡眠を改善したことにより、15kgのダイエットと重度のパニック障害の克服、体質改善に成功した経験から、睡眠を専門的に研究。日本公衆衛生学会、日本睡眠学会 正会員。行動療法からの睡眠改善、快眠を促す寝室空間づくりを得意とし、全国での講演活動、企業の商品開発やコンサルテーション、執筆活動などを行う。
2000年、東洋英和女学院大学卒業後、共同テレビに入社。
フジテレビアナウンス室に出向し、「プロ野球ニュース」「すぽると!」「ゴルフ中継番組」などスポーツ番組を中心に担当。
06年より米女子ゴルフツアーに挑戦する宮里藍の密着取材を開始し、著書「最高の涙ー宮里藍との一四〇六日」(幻冬舎)を出版。
08年に共同テレビを退社し、フリーアナウンサーに。現在、テレビやラジオなど様々なメディアで活躍。