

南極に行ったら一度は食べたいもの、それは、カラリと揚げた「フライドペンギン」、レア肉が美味しい「アザラシステーキ」、南極海で身の締まった「ライギョダマシの姿造り」、プチプチとした食感が堪らない「ナンキョクオキアミのかき揚げ」。南極でしか捕れない旬の食材をシンプルに調理していただく食事は、南極の絶景と共に終生忘れられない食事となるでしょう……なんてことはありません!
南極ウォッチングの項目でも触れましたが、南極の生き物は一切捕獲してはいけないのですから、南極の生き物を食材として調理するなどもっての他です。ですから、南極料理などという風土性のある料理は存在しないのです。
では、南極へ行ったら、何を食べるのでしょうか?
残念なことに、南極大陸で食事をすることは、我々観光者には許されていません。おにぎり一個でも南極に持ち込み氷床の上でピクニック、というわけにはいかないのです(できたら、一度はやってみたいですけど…)。
観光者が食事をするのは、客船の中のみとなります。もちろん船窓から南極の氷山や星空を眺めながらの食事はできます。それだけでも南極ならではの体験ですから、素晴らしく贅沢な食事と感じることでしょう。


観光客は船内での食事のみということは解かりましたが、実際、南極観測隊の人たちは、どんなものを食べているのでしょうか?
これも残念なことに、日本の国内で食べられるものとさほど変わりはないとのことです。もちろん越冬隊の食事ともなると、後半には生鮮野菜などは極端に不足してしまい保存食が多くはなるようですが、昨今の保存技術の発達により、それほど不自由があるということはないそうです。生野菜についても「野菜工場」というものがあり、水槽の中で特別な育て方をすることにより、多少の野菜(主にレタスだそうです)であれば収穫可能とのことです。
不自由があるどころか、南極での食事はレパートリーも量も豪華なことで有名です。それは、南極の寒さから体を守り、奪われる体力を維持するため、多くの食品を摂らないとならないからだそうです。また、娯楽が少なく、過酷な任務を負っている越冬生活の中では、やはり食事、食べること自体がかけがえのない楽しみになってくるので、自ずと隊員の要求も高まるのだそうです。
人にもよりますが、南極滞在中の越冬隊員は、日本国内で食べていた量の2倍は軽く食べるそうです。その量は、映画『南極料理人』の原作である『面白南極料理人』(西村淳/新潮社)の中で、“南極観測隊の統計によれば、酒やジュース類の飲料も含め、大体重さにして1トン弱くらい”と書かれています。南極観測船「しらせ」の積載リストにも、“糧食50トン”と書かれており、これを30名ほどの越冬隊と30名ほどの夏隊の食料として持ち込むのですから、その食事量は相当なものです(もちろん万が一の事態を想定した予備食料もありますが)。
南極昭和基地でもっとも豪華な食事は、6月中ごろに開催される“ミッドウィンター祭”の食事だそうです。このお祭りは、南極における冬至の前後数日間に、南極にあるすべての国の越冬観測基地で行われます。この間に振舞われるディナーは、フランス料理のフルコースディナーであったり、かたや和風懐石コースであったりと、日本にいてもなかなか味わえない豪華なもので、隊員たちはみんな正装をしてテーブルにつき、連日給仕される料理に舌鼓を打つのだそうです。
