台風によってどんな被害が起こるのかを知る
ーー大型台風によりどのような災害が起きるのでしょうか。
野村さん:台風がもたらす主な被害は、風害、水害、土砂災害の3つです。一般的に平均風速15~20m/秒の風で歩行が困難になり、看板や瓦、ガラスなどが飛散します。さらに風が強まると樹木の倒壊や建物の損壊など、深刻な被害が発生する可能性があり、近年は建設現場の足場が崩れたり、大型の看板が倒壊したりするなど、都市部での被害も目立っているのが現状です。
水害については、河川の増水や堤防の決壊による洪水被害が代表的です。堤防は大きくわけて水が飽和状態になることで起こる浸透決壊と、水流で削られることによる浸食決壊の二種類。特に近年は都市構造の変化により、地表水の増加に排水が追いつかない「内水氾濫」も深刻な問題となっています。
土砂災害については、台風に伴う大雨により、土石流や崖崩れ、地すべりなどが発生する危険があります。土砂災害の前兆として、山肌やがけ地からの赤茶色の水の流出や粘土の臭いなどが挙げられます。粘土質の臭いが強くなった場合は、地盤の緩みが進行している可能性が高いため、直ちに避難を検討する必要があります。
台風がもたらす
主な被害

ーー事前にどのような対策を取っておけば良いでしょうか?また、特に注意すべき場所についても教えてください。
野村さん:防災対策として最も重要なのは、正確な情報収集です。国土交通省が運営する「気象×水害・土砂災害情報マルチモニタ」では、各地の気象情報や水害・土砂災害情報を一括して確認できます。また、気象庁の「キキクル」では、大雨による災害発生のリスクを地図上でリアルタイムに確認できるのでぜひ覚えておいてください。国土交通省が運用する「XRAIN」では、高精度なリアルタイム雨量観測データから、より詳細な降雨状況を把握できます。
場所については、近隣のハザードマップを活用して、事前に危険個所を確認しておきましょう。また、それと並行して、事前の気象情報、周囲の気象情報(上流付近)を小まめに確認しておくことも大事ですね。私の経験上、川沿いに桜が植えてある川土手は、氾濫した過去があると判断します。桜を植えることで人々が鑑賞する機会が増え、多くの人が散歩をしますので、その結果、地面が固くなり土手が強くなるという理由からです。

国土交通省が運用する、リアルタイム雨量観測システム「XRAIN」を活用。
出典:国土交通省 川の防災情報ホームページ

行政がWebサイト等で発信しているハザードマップで近隣の状況を確認。
出典:「ハザードマップポータルサイト」
家を守るため知っておきたい台風対策の具体例
ーー雨どいや屋根など、台風シーズン前に必ずチェックすべき箇所と、その点検・メンテナンスのポイントを教えてください。
野村さん:台風への備えは、できるだけ早い時期から始めておいた方が良いです。理想的には、気候変動対策や防犯対策も兼ねて、年間を通じた定期的な点検体制を整えることをおすすめします。
屋外の点検では、まず窓や雨戸の施錠確認から始めます。必要に応じて補強を行い、植木や置物、鑑賞物、インテリア類は室内への収納を検討します。側溝に溜まっているゴミも確認しておきたいですね。あとは雨どいや屋根などの高所の点検・清掃ですが、安全確保が難しいため、可能な限り専門業者への依頼をおすすめします。
地上部分の点検や清掃を自身で行う場合は、適切な装備が必要です。具体的には、手袋(厚めのグローブ)、滑り止めのある靴、長袖・長ズボン、マスク、可能であればゴーグルも着用できると良いです。
作業内容は事前にチェックシートを準備し、写真や動画で記録を残すことをおすすめします。これにより、季節ごとの見直しや経年変化の確認がしやすくなります。
これらの点検は、日常的な清掃と合わせて実施することで、防災対策だけでなく防犯対策としても効果を発揮します。ただし、台風が近づいてから急いで屋外作業を行うのは危険なので、十分な余裕を持って対応しておきましょう。

台風の備えとして、まずは窓や雨戸の施錠確認から行います。

庭や玄関先にある植木や置物、鑑賞物、インテリア類は室内に移動。
ーー浸水対策として、玄関や窓などの開口部で実施できる効果的な対策方法は何でしょうか。
野村さん:浸水対策は、建物の開口部に対する総合的な防護が必要です。まず窓に関しては、浸水防止と飛散防止の二重の対策が重要になります。飛散防止フィルムやガムテープ、サランラップを重ねて貼り、さらにカーテンやブラインドで室内の安全を確保しましょう。これにより、強風で窓ガラスが割れた場合でも、破片の飛散を防ぎ、室内への雨水の侵入を最小限に抑えることができます。
既存住宅での浸水対策の基本は、土のうや水のうと防水シートの組み合わせです。プランターやブロックなども代用品として活用できますが、設置方法を誤ると効果が大きく低下する可能性があります。土のうは単に積み上げるだけでなく、互い違いに重ねることで隙間をなくし、防水シートと組み合わせることで高い防水効果を発揮します。
また、下水からの逆流による浸水も重要な問題です。特にトイレやお風呂からの逆流は衛生面でも深刻な被害となるため、配管への逆流防止装置の設置を検討する必要があります。新築やリフォームの際には、立地環境を考慮して基礎部分や開口部の位置を工夫したり、防水・止水構造を採用したりすることで、より確実な浸水対策が可能になります。

ーー次は風害対策として、注意すべきポイントはありますか。
野村さん:風害対策で最も重要なのは、飛散物による被害の防止です。台風接近時には、看板や瓦、ガラスなどの飛散物が強風で凶器となり、人的被害をもたらす可能性があります。
カーポートは、その構造特性を理解することが重要です。通常、台風など強風時にカーポート全体が持ち上がったり支柱が倒れたりするのを防ぐため、屋根材だけが外れる設計になっています。この特性を踏まえた上で、適切な補強をやっておく必要があるでしょう。
屋根やフレームの揺れの補強には、屋根材ホルダーやパネル抜け防止材、屋根ふき材補強部品の取り付け。フレームの補強は、支柱の固定確認、接合部の緩みチェック、必要に応じたサポート柱の追加などが考えられます。カーポート本体と周辺の確認を行い、片持ちタイプのカーポートでは、サポート柱の設置が特に効果的です。着脱タイプと固定タイプがありますが、いずれの場合も屋根材の補強と併用することで最大の効果が得られます。ただし、防風ネットの使用はNG。ネットで覆うことで風圧が高まり、カーポート本体が倒壊する危険性が増すためです。
建物の開口部に関しては、強化ガラスの採用やシャッター、雨戸の設置が有効です。特に強風地域では、雨戸やシャッターは飛来物からの保護に大きな効果を発揮します。

カーポートは屋根材だけが外れる構造を踏まえた、適切な補強が必要。

窓の雨戸やシャッターは、飛来物からの保護に効果を発揮します。
万一の時に困らない停電対策とライフライン確保
ーー停電に備えて、日常生活に必要な電源確保の方法にはどのようなものがありますか。太陽光発電やバッテリーの活用法も含めて教えてください。
野村さん:近年、災害による停電が長期化するケースが増えており、複数の電源確保手段を組み合わせた対策が重要になっています。対策は大きく分けて、携帯型の小規模なものから住宅設備として導入する大規模なものまで、段階的に考える必要があります。
まず基本的な対策として、モバイルバッテリーの準備が挙げられます。容量は20,000mAh以上(スマートフォン4回分の充電が可能)のものを複数用意すると良いでしょう。様々なタイプがありますが、基本的には充電式が主流です。電池式は使用時間が限られ、手回し発電式は発電量が不安定なため、補助的な使用にとどめるのが賢明です。
次の段階として、ポータブル電源と発電機があります。ポータブル電源は軽量で持ち運びもしやすいため、短時間の停電対策には適していますが、長時間の停電では充電切れが課題となります。発電機は、燃料(ガソリン・ガス)を入れることで長時間の停電でも安定した電力を供給できるメリットがあります。ただし、ガソリン代の高騰や購入・保管に手間がかかること、取り扱いの難しさがデメリットです。ガスボンベタイプは、ガソリンに比べて取り扱いや保管管理は簡単ですが稼働時間がガソリンに比べて短いです。2つに共通している事項として、騒音や振動・排気ガスの問題、室内での使用の事故もあるため、取り扱いには注意が必要でしょう。
本格的な対策として注目を集めているのが、太陽光発電システムとバッテリー(蓄電池)の組み合わせです。日常的な光熱費の削減、非常時の電源確保、余剰電力の有効活用、FIT制度終了後も継続的に活用可能という特徴があります。
蓄電池は主に5種類(リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、鉛蓄電池、NAS蓄電池、全固体電池)があり、家庭用として一般的なのは、容量が大きく、家庭の複数の電化製品に電力を供給できるリチウムイオン電池。太陽光発電システムと蓄電池の連携により、夜間や悪天候時でも安定した電力供給が可能になります。

電源確保のため、20,000mAh以上のモバイルバッテリーを複数準備しましょう。

太陽光発電システムと蓄電池の組み合わせで、安定した電力供給が実現します。
災害発生時の対応と復旧に関する知識
ーー台風が来た時に、住まいの中でとるべき具体的な準備や対策を教えてください。
野村さん:台風への対応は、時系列に沿った計画的な準備が重要です。時期によってとるべき対策をまとめましたので参考にしてください。

台風対策作業中に風が強まってきたなら、途中でも作業を断念して屋内へ避難しましょう。上陸後は、気象状況を確認、家の中心付近で待機する方が安全です。
ーー浸水被害を受けた後の復旧作業で、特に注意が必要な点は何でしょうか。
野村さん:復旧作業での最優先事項は、二次災害の防止です。作業を始める前に、まず建物の被害状況を詳細に記録する必要があります。写真撮影は屋外と屋内の両方について、系統的に行います。屋外では、建物の状態を東西南北の4方向から撮影し、浸水の深さが分かるようメジャーを添えて記録しましょう。損傷箇所は近接して撮影し、周辺環境や隣接建物との関係も分かるように記録しておくと良いです。
屋内については、各部屋の出入口からの全景を撮影し、被害箇所の詳細な記録を残します。特にシステムキッチンや洗面台などの住宅設備、家電製品の被害状況は、保険請求の際に重要な証拠となるため、丁寧に記録しておく必要があります。
ライフラインの復旧は、特に慎重な対応が必要です。電気の復旧では、通電火災を防ぐため、段階的な確認と作業が重要になります。まず、すべてのブレーカーが「切」になっていることを確認し、電化製品のプラグを抜き、浸水箇所が完全に乾燥していることを確認します。その後、アンペアブレーカー、漏電遮断器、安全ブレーカーの順に入れていきます。この際、漏電遮断器が作動した場合は漏電の可能性があるため、直ちにブレーカーを切り、専門家による点検を受けるようにしましょう。
水道の復旧においては、まず水の濁りがないことを確認します。浸水被害を受けた場合、井戸水は細菌汚染の可能性があるため、必ず水質検査を実施してください。また、浄化槽も被害を受けている可能性があるため、使用前の点検は必須です。
ガスの復旧では、まずガス漏れの有無を確認します。プロパンガスを使用している場合は、ボンベの位置ずれがないか確認し、必要に応じて業者の点検を受けます。マイコンメーターが作動している場合は、正しい手順で復旧作業を行いましょう。
復旧作業を行う際は、適切な防護具の着用が不可欠です。特に台風による浸水は海水を含む場合が多く、塩分による機器の腐食や故障のリスクが高くなります。また、カビや粉塵の影響を考慮して、高齢者や呼吸器疾患のある方は作業を避けるべきです。
定期的な家族会議で対応手順を確認し、必要な備えを整えておくことで、台風による被害を最小限に抑えることができます。また、日頃から地域の防災訓練に参加し、近隣住民との協力体制を築いておくことも、災害時の対応力を高める重要な要素です。

我が家の環境に合わせて考えたい対策
ーー台風対策のリフォームを考える際、予算や優先順位の付け方について、アドバイスをお願いします。
野村さん:「防災対応リフォーム」の考え方を取り入れることをおすすめします。一般的なリフォームではキッチンや間取りなど目に見える部分や老朽化した部分に費用をかけがちですが、家族の安全を守るという観点から防災面に特化したリフォームも検討してください。
まず考えるべきは「災害から命を守る」ことです。立地や環境、エリア、地盤などにより警戒すべき災害は異なりますが、守るべきものの優先順位は明確です。人命を最優先させるために、住宅は「家自体が災害から守ってくれる」と「室内にいる人を安全・確実に避難させる」という2つの機能を備える必要があります。
優先順位が命・身体の安全確保であれば、次は災害時の自宅避難やライフラインの寸断に対応したリフォームや修繕を考えます。また、台風の前後や地震後に屋根の状態が気になる場合は、ドローン調査で屋根の状況を確認し、住宅診断士のアドバイスをリフォームに活かす方法もあります。
防災対応リフォームを考える時は、先を見据えた計画性が大切です。時間とともに、家族の成長や各々の対応力、生活サイクルは変化します。直前の課題や状況だけでなく、建物のコンディション、立地・地盤・環境でどんな災害のリスクが高いかを考慮して、重点的に補強する箇所を決めましょう。また、修繕面のリフォームのタイミングと合わせることで、コストダウンにもつながります。
ミサワリフォームの
防災・減災リフォーム

夜間・早朝の災害発生でも、避難経路の安全な移動を助ける「足元保安灯」。

災害などによる停電時に、避難経路の照度を確保する「蓄電池内蔵LED照明」。

ガラスが割れても破片が飛び散りにくい、飛散防止性に優れた「防災ガラス」。

停電時の暑さ・寒さによる健康被害を低減する「窓・躯体断熱」
ーー台風接近時・上陸後の対策について、戸建てとマンションで違いはありますか。
野村さん:居住部分のみで考えると、戸建てもマンションもライフライン(電気・水道・ガス)の寸断、故障、損壊は同様です。しかし、復旧や使用時期の判断は、戸建ては個々か自治体にて確認、マンションは管理組合の確認や居住者全員の同意や自治体への確認が必要です。
避難経路に関しては、戸建ての場合は玄関を優先して避難すると良いでしょう。また、住居の危険度に伴い避難所に行かなければならないリスクもあります。玄関以外にも開口部を確保して脱出することを考えましょう。台風での家屋浸水、倒壊はマンションよりリスクが高くなります。
これらの対策は、建物の特性を理解した上で、適切な防災対策を講じることが被害を最小限に抑えるポイントとなります。特に、定期的な点検と維持管理を怠らず、必要に応じて専門家に相談することをおすすめします。
ーー台風による甚大な被害で、復旧に時間がかかることも多いですもんね。そう言った有事の際に、慌てず行動できるようにイメージしておくことが大切ですね!野村さん、今回もありがとうございました。
野村さん:ありがとうございました。


防災スペシャリスト。1970年生まれ、広島県呉市出身。日本テレビ『世界一受けたい授業』の先生、『THE突破ファイル』再現ドラマのスーパーバイザー、『ザ!世界仰天ニュース』の出演・監修。NHK『ニュースLIVE! ゆう5時』防災コーナーレギュラー。フジテレビ『Live News イット!』コメンテーター、TBS『Why!?なミステリーの真実は?ほわーい話』監修などメディア出演・監修多数。

2000年、東洋英和女学院大学卒業後、共同テレビに入社。
フジテレビアナウンス室に出向し、「プロ野球ニュース」「すぽると!」「ゴルフ中継番組」などスポーツ番組を中心に担当。
06年より米女子ゴルフツアーに挑戦する宮里藍の密着取材を開始し、著書「最高の涙ー宮里藍との一四〇六日」(幻冬舎)を出版。
08年に共同テレビを退社し、フリーアナウンサーに。現在、テレビやラジオなど様々なメディアで活躍。