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interview

いつもの日常に
クラシック音楽を

音楽ジャーナリスト
菅野 恵理子さん

近年、アメリカの大学では
教養としての音楽を重視している。
音楽には作曲家たちの思考や感情、
その時代性が込められていて、
そこから学ぶものが大きいからだ。
音楽ジャーナリストの菅野さんに
クラシック音楽の楽しみ方を教えてもらおう。

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  • 音楽は人間の記憶の宝庫です
    音は、文明以前から私たちの生活の中にずっとありました。音楽は、言葉と同様に積み重ねられてきた人間の記憶の宝庫ともいうべきもの。古今東西の芸術作品には、偉人の才能や感性が詰まっています。作曲家と呼ばれる人たちは、鋭い感覚で自分自身や他者の心象を読み解き、物事の本質や自然の摂理を見抜いて、作品を通じて人々に伝えてきました。

    音楽には思考や感情が込められている
    音楽は、作曲家がその時の自分の感情と向き合って生まれています。たとえばシューマンの「献呈」(歌曲集『ミルテの花』第一曲)やエルガーの『愛の挨拶』などは、その美しい旋律に新妻への愛が溢れています。また、作曲家が生きた時代が反映されている曲も多くあります。プーランクのカンタータ『人間の顔』は、第二次世界大戦時下における抑圧からの解放と自由を願った曲。その第八曲「自由」では“自由!”という最後の一音でソプラノが1オクターブ上がり、自由への渇望を生々しく伝えています。

    音楽は、世界を広げてくれる
    クラシック音楽を聴くことは、世界の多様性を知ることにもなります。収穫の喜びや愛に満ちた時間だけでなく、戦時中のように誰しもが苦しい時代や社会の下でも音楽は生まれています。どういう状況で生まれた音楽なのか、その曲が生まれた土壌となる背景を知ると、本で読む歴史以上に、その時代に生きる人たちの思いを感じることができます。
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  • アメリカの大学生は音楽を学んでいます
    19世紀半ばにハーバード大学で音楽学科が創設されて以来、アメリカの大学では音楽が幅広く学ばれています。専門または教養(リベラルアーツ)として、1校につき千~二千人規模で学生が学んでいます。理論だけでなく、演奏実技の授業も多く開講されています。

    各大学に、それぞれのテーマ
    近年、人文学の重要性が高まる中で音楽や芸術の学び方も広がり、「音楽の潜在価値をいかに引き出して、豊かな人格形成や人間理解に役立てるか」といった観点でもカリキュラムが組まれています。大学によってアプローチは異なり、たとえばハーバード大学は、音楽で多様な価値観を理解する力を育む。マサチューセッツ工科大学は、創造的思考力を高める。スタンフォード大学は、音楽で真理に迫る質問力を高めるといった特徴があります。なお、音楽は古代ギリシアの頃にも基礎教養とされていました。
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  • いつもの日常に音楽を
    私たちが五感を使って知覚する割合は、視覚が8割以上に対して、聴覚は1割ほどと言われています。本来、脳内では視覚よりも聴覚からの刺激のほうが、複雑でダイナミックな伝達をすることがわかっています。しかし、聴く力が弱まっていくと、人間は気づかないうちに細かなニュアンスを感じる力を退化させてしまう可能性があります。

    文化は家庭で育まれます
    リズムに乗って体を揺らしたり、ハミングをしたり、手を叩いたり、音楽を聴いていると身体が自然に反応します。それはクラシック音楽も同様です。子どもは感覚が開かれているので、聞こえた音を先入観なくそのまま身体全体で受け入れます。子どもと一緒に、まずは内なる情動のままに動いて、その世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。物語性や感情の機微など、クラシック音楽が含む情報はとても多い。その豊かな音の世界に浸ってみてください。

    聴くことに集中する
    様々な音楽に自然に親しむとともに、1日3分ほど集中して聴く時間を設けてみるのもいいですね。親子でお気に入りの音楽を聴きながら、一緒に歌ったり、感じたことや浮かんだイメージを話し合ったり、自分自身の感情を見つめて表現してみる。そうすることで、家族の中に音楽の世界が広がっていきます。それに、音楽は感情を増幅させるので、親子で音楽を聴いているとそのシーンが記憶として定着します。私も曲を聴いていると、ふと幼い頃の情景が浮かんで心が和みます。
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  • 音楽で、心と人生を豊かに
    より深い音楽の楽しみ方としては、同じ曲を複数の演奏家で聴いてみるのもお勧めです。どこが違うのか?その違いはどうして生まれたのか?また作曲家の思想や感情だけでなく、演奏家がそれをどう解釈して表現しているのか、思いを馳せてみると、人の感受性や表現法は多様であることが実感できるでしょう。大人の感性が高まると、それは子どもにも伝達すると思います。ぜひホールなどへ足を運び、音楽の世界をライブで体感してもらいたいですね。

    耳を開いて、心を開く
    音楽を聴いて、作曲家の感情のゆらぎを疑似体験することは、私たちにカタルシスをもたらします。音楽は、自分の中で消化しきれない感情を表してくれます。喜怒哀楽の中でも怒りや哀しみといった感情は扱いづらいものです。しかし、音楽を聴くことでそうした感情を自己客観視することができて、ポジティブに解放することができるのです。聴くことで、耳を開いていってください。そうすると世界が広がり、心が開かれていきます。クラシック音楽を聴くことで、人生をより豊かに過ごしてほしいと思います。
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profile

菅野 恵理子さん
菅野 恵理子さん
音楽ジャーナリスト。国際コンクールや海外音楽教育の取材を手がけ、音楽で人の可能性を広げたり、音楽と社会をつなげることをテーマに、調査研究・講演・メディア出演・雑誌寄稿などを行っている。全日本ピアノ指導者協会研究会員、マレーシア・ショパン協会アソシエイトメンバー。『10週間で〈耳〉をひらく!~リベラルアーツ・マインドを育む音楽の聴き方』(仮)が今秋刊行予定。

関連サイト
音楽で耳をひらく

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未来の人材は「音楽」で育てる 世界をひらく5つのリベラルアーツ・マインド
未来の人材は「音楽」で育てる 世界をひらく5つのリベラルアーツ・マインド
ベストセラー『ハーバード大学は「音楽」で人を育てる』に続く第二弾。各国の教育事例と合わせて、大作曲家の生涯から未来の人材に必要な5つの精神を学ぶ1冊。2018年6月発行(アルテスパブリッシング)



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