Frontier Story

伝統の打ち水、
その常識を破る

まちづくり事業
2007年入社/東京大学大学院卒

平山 由佳理Hirayama Yukari

商品開発部 商品開発二課
工学博士
宅地建物取引士

Frontier Storyフロンティアストーリー

伝統の打ち水、その常識を破る

ミサワホーム入社以来、研究職として1人1テーマを持ち、直近は環境創造研究室に所属し、真夏と真冬の暑さ寒さ対策を研究していました。ミサワホームが考える住まいの快適さとは、自然の力を最大限活用し、その上で足りないものを建築的な工夫や設備で補っていくことを課題としています。

その中で私が携わったプロジェクトが「ドリップルーバー」の開発です。「ドリップルーバー」とは、高さ1.8mのアルミ素材のルーバーに上からゆっくりと水をしたたらせることで、蒸発冷却効果を利用し、周辺に高い打ち水効果を生み出す環境エクステリアアイテムです。実際に住宅地に取り入れ、街全体で自然の力を使い、涼しい住環境をつくるというプロジェクトに当初から携わりました。

自然の力で人が涼しさを感じられるものに風がありますが、風が持ち去れる熱というのはせいぜい数十ワット。それに対して水の気化熱というのは数百ワットもあり、圧倒的に水の気化熱が大きいのです。そこで水の蒸発をもっと使うべきと考え「打ち水」に注目しました。

しかし従来の打ち水で涼しさを感じることは難しいです。なぜかというと、地面と、人が暑さ寒さを感じやすい顔の高さには距離があるので、ダイレクトに涼しさを感じることができないのです。ならば立面を作ることができるルーバーにすれば、涼しさを感じることができるのではないかと考え、立体的に打ち水を行う方法を考えました。

ルーバー本体に水を滴らせることで、濡れている面から水が蒸発する際に、熱を奪ってルーバーを冷却するという仕組みです。さらに通過する風が冷却されたルーバーにより冷やされるので涼しくなります。日本の夏の気候条件下では、水の力で平均1度、最大3度ほど気温を下げることができます。

技術により水の特徴を解決

しかし水はその扱いが難しく、「水みち」という言葉があるように、水は一度流れてしまうと同じ場所ばかり流れてしまい、全体を万遍なく濡らすことに苦労しました。スポンジのように多孔質なものを浸すという方法もありますが、いつまでも濡れていると、汚れがつきやすいという問題があります。

最初に開発した「クールルーバー」というアイテムでは、アルミの表面に発泡ガラスを吹き付け、その上に光触媒を採用し、表面だけにさっと水が広がるようなルーバーをつくりました。中までは沁み込ませず、表面にだけ水を広げることができ、表面は30分位で乾くので汚れも防ぐことができるんです。それは画期的な手法ではありましたが、構造が複雑だったため、製造上のコストもかかってしまいました。

新たなひらめきにより更なる開発へ

そこで、様々な分野の方にヒヤリングをした結果、農業分野でも万遍なく水を撒くのが難しいという問題をヒントに、多くの穴から水が落ちるようにすれば水が広がるのでは?という発想に行き着きます。

ドリップルーバーはアルミ素材に穴をあけ、穴を通りだんだん水が落ちていくことにより、徐々に広がっていく構造です。穴の大きさも上段が4㎜で下段は5㎜となっており、これ以上大きくなると重力の方が勝って落ちてしまいます。この大きさで次の水滴がくるまでギリギリぶら下がっていることができます。

水滴がぶら下がっていると濡れている表面積が増えることになるので、アルミの表面積に加え、熱交換する面積が増えます。ですので水滴をぶら下げるということが大事ですね。さらにルーバーの奥行きや角度も調整し、日没や日の出など、太陽高度が低い時にしか太陽光が入らないような構造にしています。全体が濡れると、風が吹くことにより涼しい風を感じることができます。水滴はあえて見せるようにし、水の音も含め、五感で涼しさを感じてもらえればと思っています。まさに自然の涼しさですね。

材料も、特別なものを作るとコストかかってしまうので、既存品をいろいろ組み合わせることにより、低コストを実現しました。専用部品ばかりですと施工の際にも専門の職人を呼ばないといけないのですが、既存品なら一般の外構職人でも施工ができます。メンテナンスも拭き掃除のみですので、簡単にすることができます。

設計を学ぶため、研究職を離れる

日本一暑い都市、埼玉県熊谷市で「涼を呼ぶまち」をコンセプトに開発された戸建て分譲地で、初期に開発したクールルーバーを設置してもらえることになりましたが、どこにどれくらいの規模で設置すれば効果があるのか、どういう納まりにすればその空間ができるのか、と聞かれたときに、即答できないことがありました。住宅設計についても知識がないと、良い技術を開発しても住宅商品の部品として良い提案ができないというジレンマがありました。

ですので昨年、設計の部署へ異動させてほしいと嘆願しました。もともと建築出身ではないので設計のことがわからず、教えてもらう立場としては年齢的にも最後のチャンスだと思ってのチャレンジでした。

設計の部署に来てまだ一年なため、設計・運用ルールの作成など四苦八苦する場面も多い一方で、新しい課題が次々と目に留まるようになっています。家族のニーズ、社会のニーズ、そして建築業界の抱える課題を踏まえ、全体のバランスをとっていくのが住宅メーカーの仕事だという思いが強くなりました。環境問題が深刻化する中、今まで以上に、自然とともに暮らせる住まいの開発を行っていきたいと思っています。

※所属は取材当時の部署を記載 

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