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interview

発酵文化は
自宅で楽しめる

発酵デザイナー
小倉 ヒラクさん

微生物の力を借りて、
時間をかけることで生まれる発酵食品が
世の中の注目を集めている。
全国の醸造家や研究者たちと
発酵文化を研究し、アーカイブしている
小倉さんに、その魅力と可能性を聞いた。

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  • 発酵食品は、いいことばかり
    先人たちの知恵の結晶が「発酵」です。日本人は、見えない自然を解き明かして、暮らしに取り入れる作業を続けて、1000年以上になります。そうして生まれた発酵食品はいいことばかりです。煮大豆はすぐに腐りますが、味噌になると何年も腐りません。良質のたんぱく質やアミノ酸、ビタミン類が豊富で、お味噌汁にすれば飽きないおいしさです。

    日本は発酵食品の国です
    大豆に麹菌をつけると味噌になります。米に麹菌をつけると麹になり、麹を水に浸して酵母を呼び込むことでお酒に。そして、麦と大豆に麹菌をつけ、それを塩水に漬け込むと醤油になるんです。日本各地には、味噌、醤油以外にも多様な発酵食品が存在しています。そこにはその土地や、そこで暮らしてきた人の記憶が残っていました。しっかりと発酵文化が受け継がれているんです。
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  • 「手前味噌」が注目されています
    僕らのおばあちゃんが幼い頃までは、「買い味噌は恥」という言葉がありました。味噌は、買うのではなく作るのが当たり前だったのです。僕や仲間たちは、発酵文化を広めるために「手前味噌」のワークショップを続けてきました。震災のあった2011年以降、若いお母さんの参加が目立つようになりましたね。

    自分で作ることに辿りついた
    理由を聞くと「食べることについて、おいしければいいとか、コスパが良ければいいと考えていたけれど、子どもの身体のもとになっている食を知りたい」という答えでした。ネットで調べても、なにが正解だか分からなくて、最終的には自分で作ることに辿りついたのです。

    「手前味噌」は、意外に簡単です
    味噌づくりは、煮大豆と麹と塩を混ぜて、樽のなかでほったらかすだけです。失敗すること、まずありません。仕込みはシンプルですが、発酵過程は複雑で、そこがいいんです。微生物の働きで、味が変化するので、愛おしくなります。他には、農家の方からもらった大豆や、ひよこ豆で作ってみたり‥‥。マニアックに突き詰めたい欲と育てたい欲を同時に満たす魅力があるんです。

    味噌ができたら、おすそ分け
    多くの人は味噌をたくさん作って、おすそ分けするんですね。手前味噌は、用事づくりなんです。人と会う機会だったり、「あなたのことを大切に思っているよ」というメッセージだったりします。「人と競争するのではなく、分かち合うことを楽しんでいく」という、ひとつのシェアカルチャーなのです。
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    「てまえみそワークショップ」の様子

  • 子どもにとっての発酵
    子どもにとっても、手前味噌はいいですね。発酵そのものが、好奇心を刺激します。たとえば、発酵ワークショップでは、子どもたちが集めた微生物を培養します。そうすると、数日で“ナウシカの腐海の森”のように育つんです。それをSNSで知らせると「こんなにいっぱい出てくる!なにこれ!」と、とても喜んでくれます。子どもたちの感受性が突き動かされているんだと思います。

    プロセスを楽しむ力
    それに手前味噌を通して、プロセスを楽しむ力を身につけてほしいですね。結果だけを求める大人になってほしくないんです。大切なのは、結果ではなくプロセスです。大豆や麹をさわって味噌を仕込み、それが熟成していく過程を見守っていく。そうして手作りした味噌でできたお味噌汁は、おいしく感じるはずです。そして、その味は、子どもたちの記憶に刻まれます。
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  • 発酵の可能性について
    ここ10年で発酵の世界の裾野は広がり、発酵は思想としても注目を集めています。ひとつは、現代社会が向かっている方向へのカウンターだと思います。現代の産業は、時間をゼロにする、手間をなくす、オートマティックにする‥‥が基本です。発酵は、それの反対なんです。時間も、手間もかかるものです。微生物が介在する不確実性によって豊かになるというリアリティこそが、人を惹きつけるのだと思います。

    日本的なディープテック
    地球温暖化などの課題に対して、日本的なディープテックとして発酵の可能性が高まっています。たとえば、衣服の染料はそのまま流すことができません。しかし、土から生まれた藍の葉や灰汁を発酵させた藍染であれば土に戻すことができます。また、乳牛の尿は、とんでもない量が出ます。そこに発酵という働きを加えることで消臭剤に変える試みが進んでいます。こういうケースが数多くあるんです。

    牧場からの革命?
    僕としてはコンピューティングやAIに触れつつも、前述のディープテック的な発想を大事に発酵に向き合っています。これからの革命は、都会のビルではなくて、牧場から始まったりするのではないかと‥‥。そういう世界観に期待していますね。僕としては‥‥。
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小倉 ヒラク
発酵デザイナー。「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家や研究者たちと発酵や微生物をテーマにしたプロジェクトを展開。山梨県甲州市の山の上に発酵ラボを作り、微生物の世界を日々探求している。絵本『おうちでかんたん こうじづくり』を発表するとともに、「こうじづくりワークショップ」をスタート。のべ1000人以上に麹菌の培養方法を伝授。

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「発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ」
お酒、味噌、醤油、麹、イースト、藍に乳酸菌……。微生物が人間にとって役立つ働きをしてくれる「発酵」を通じて、文化人類学の方法論を駆使しながら、日本のルーツや社会現象を捉え直す。2017年5月(木楽舎)



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