interview
ずっと、つきあえる
椅子がひとつあれば
家具デザイナー
村澤一晃さん
椅子は座り心地だけではなく、居心地を良くするもの。
ずっと、つきあえる椅子がひとつでもあれば、
人生はもっと豊かになるだろう。
一度座ると、そう感じてしまう。
それが、村澤一晃さんがデザインする椅子だ。
いろいろなカタチの椅子に囲まれて、インタビューは始まった。
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- どういう椅子が、"いい椅子"ですか?
- いい椅子というのは、これという形があるわけではなく、人それぞれで違ってくるものだと思います。人間工学に沿って考えれば、「背もたれはこの角度で、深さはこのくらいで」といった一定の基準があるでしょう。でも、私たちは静止画のように座ることはしない。特に日本人は椅子の上で、あぐらをしてみたり、片膝を立てたり、正座してみたり、いろいろな座り方をします。だから、僕は少しくらい行儀が悪くても、ざっくばらんに受け止める椅子が、いいと考えています。座面を大きくしてみたり、ソファを低座にしてみたり。低座のソファは座るだけでなく、ソファからずると下に降りて寄りかかれるようにしています。つい、ソファから降りてしまう人もいますからね。
そして、触り心地も大切ですね。椅子に座っていると、無意識のうちにアームの部分に触れます。特に日本人は、家では裸足で過ごすので、無意識に足で椅子の脚に触ったりしています。PePe(ペペ)(写真A)という椅子は、足で触れる脚部の断面は丸く、アームの部分で丸四角になり、上に行くほどまた丸い形に戻るといったように、触り心地にこだわるようにしています。
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写真A
左手前から、リボンスツール、AKIシリーズ/ダイニングチェア、ottimo CHAIR、GOMAスツール、PePe(ペペ)、BARDANA(バルダーナ)
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- "いい椅子"は、どうやって作りますか?
- 造形という意味でのデザインだけでは、いい椅子は生まれません。いい椅子には、作り手と使い手の思いが必要です。僕の役割は、"翻訳者"だと考えています。使う人を見つめて、その人が何人かいれば、その人たちの暮らしや思いを突き詰めていきます。そして、デザインという言葉で、工場に伝えていくのです。
昔から、僕は工場巡りが趣味でした。今でも工場の片隅に座って、椅子を作っている現場を見ているのが大好きです。日本には、腕のいい椅子作りの職人さんがいます。僕の椅子作りは、使い手の思いを作り手に伝えることから始まります。その対話を通して、作り手の得意分野や作り方、思想を引き出すことで、新たな椅子が生まれてくるのです。それは、椅子のあるべき形に尖らしていく作業とも言えます。
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- ずっと、つきあえる椅子の選び方は?
- "座る"という行為から椅子を考えた時、椅子は居心地の良さを生むものです。だから僕は、座り心地より、居心地が良いと言われる椅子を作りたいと考えています。椅子ひとつが、ひとつの部屋くらいの存在価値を持ちたいですね。椅子は簡単に壊れることがありません。家と同じくらい長持ちします。一生座って良かったなと思う椅子を選んでほしいですね。
椅子にも、いろいろあります。たとえば、僕が今座っているBARDANA(バルダーナ)のロッキングタイプ(写真A)は、ゆらゆら揺れるので考え事にいいし、前のめりにもなれて書き仕事にいい。AKIシリーズのダイニングチェア(写真B)は無垢材の木目が美しく、軽量で使いやすい。身体が当たる部分は削りこんでいて、フィット感もいいですね。それぞれに良さがあるので、できればお店などで長く座ってみて選ぶといいですね。
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写真B
AKIシリーズ/ダイニングチェア
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- 子育て家族にとって、家具選びのアドバイスをお願いします
- 最近の住まいは、空間の質が高くなっています。シンプルな空間が多くなり、家具も自在に楽しめるようになってきました。昔は、テーブルと椅子はセットで買うのが常識でしたが、それぞれが自分に合った椅子を買う家族が増えてきました。だいたい、お父さんが一番いい椅子を買うことが多いのですが、いざ暮らしてみると、お父さんの椅子に子どもが座っていることが多いらしいのです。子どもは、いい椅子が分かるのでしょうね。子どもたちの椅子選びでも「子どもだから、これでいいだろう」と諦めずに、子どもにとって気持の良い椅子を選ばせてあげてほしいと思います。自分が選んだ椅子を長く使えば、愛着が生まれ、モノを大切に使うという価値観も育まれます。大事に使えば、次の道具選びにつながります。
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profile
- 村澤一晃さん
- 家具デザイナー 1965年 東京生まれ。垂見健三デザイン事務所を経て、イタリアに留学。ミラノでセルジオ・カラトローニ デザイン建築事務所に勤める。帰国後、ムラサワデザインを開設。椅子をはじめとして、家具デザインなどを手掛ける。国内外の工場を足繁く訪れ、机で図面を描くのがデザインではないことを実践している。手掛けた作品の数多くがグッドデザイン賞に選出されている。
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股旅デザイン