interview
季節のならわしから
たくさんの贈り物
歳時記研究家
広田千悦子さん
移り変わる季節の美しさや厳しさが
情緒豊かな日本の心を育み、ならわしとして続いてきた。
暮らしの中のならわしを紐解いていくと、
人生を充たす、たくさんの贈り物が見つかる。
日本の歳時記研究家の
広田千悦子さんに、その楽しみ方を聞いた。
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- 親の後ろ姿の記憶
- 幼い頃から日本のならわしについて、教え込まれたといったことはありませんでした。ただ、両親は共働きで忙しくしながらも、お正月やお盆などの年中行事に飾りをしつらえたりしていました。普段とは違う父や母の後ろ姿が、子ども心になんだか不思議なことをしているようで、その姿が時を越えて私の心に刻まれています。
ならわしには、和の心が凝縮されている
大人になるにつれ、季節の移ろいに興味が強くなり、いろいろと調べ始めました。季節のならわしは、人と自然をつなぐものです。日本は海山も近く、四季折々の情景が豊か。あたたかくも時に厳しい自然をいとおしみ、深くつきあう「和」の心が、ならわしに凝縮されていました。そしてその季節のならわしが、目には見えない大いなる力や生きる喜びを教えてくれることに気づきました。
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- 二十四節気・七十二候
- 日本人は昔から、二十四節気・七十二候、雑節など季節を細かく分けて、繊細な季節の巡りを楽しみながら自然と向き合ってきました。だからこそ、季節のならわしには、積み重ねてきた暮らしの想いや意味が込められています。それを知るほどに楽しくなりますし、身体を動かすことで、ならわしの理解が深まります。
節分は春の始まり
たとえば節分は、立冬と立春の境目です。少しずつ春が芽吹き始める頃で、気持ちが一番動く季節。そうした節目には邪気が入り込みやすいと考えられてきました。写真でご紹介している節分飾りは、季節の境界線に見立てて豆を色分けしています。その境目に魔が忍びこまないように棘のあるヒイラギの葉を使い、イワシの臭いや大豆の豆殻が擦れる音が厄を祓います。
家族や地域の無事を願う
季節のならわしには、脈々と受け継がれてきた想いが込められています。節分は、季節の境目を無事に乗り越えられるようにという祈りをカタチにしたものです。最近はご近所付き合いや、地域のつながりが薄れてきていますが、こうしたならわしは自分たちだけでなく、暮らしの中で助け合う地域の人たちの無事への祈りでもあるのです。
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- 身体を使う体験
- 最近の暮らしは便利になりましたが、目に見えるものばかり求めて走り続けることで、想像する力は弱まってきています。大人も子どもたちも合理的なことは得意だけれど、感受性を必要とすることは苦手になっていると思います。季節のならわしは、五感を使います。たとえば、お香の香りや和紙の質感、団子をこねるときの触感など、身体を使うことで感覚が磨かれていきます。
もっと感覚を働かせる
心を豊かにするためには感覚の体験が必要です。身体の感覚が鈍くなってしまうと、「幸せだなあ」と感じる気持ちそのものを失ってしまいます。そして、感覚として心で体感しないことは、自分の中に刻まれてゆきません。今は感覚を働かせる機会をあえて作らないといけない時代です。だからこそ季節のならわしをとり入れ、もっと心を動かしてほしいと思います。
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- 日本人は円環的思考
- 季節から暦を感じとる日本人には、輪を描くような円環的な思考があります。繰り返し訪れる季節をありがたいと感じ、折々のならわしを積み重ねてきました。少しずつカタチを変えながらも、その時代の暮らしにとり入れ、楽しみながら、情緒豊かな日本の心を育んできたのです。
暮らしの中で生きた歴史を学ぶ
私は、古事記の序文が好きです。「古を稽へて今を照らす(いにしえをかんがえて、いまをてらす)」という一節。昔からの文化を見直し、お手本にしながら、それぞれの時代をよりよく生きていくという考え方です。ならわしを継ぐというのは、暮らしの中で生きた歴史を学ぶ楽しさがあります。
子どもと一緒に季節を楽しむ
ならわしと聞くと、何か特別な場所や型が必要だと構えてしまいがちですが、気持ちの向け方を変えるだけでいいのです。ダイニングテーブルに季節の飾りを置くだけでいい。自然とのつながりに大人が気持ちを向けることで、目で見てとることのできない機微が、言葉で語る以上に子どもに伝わるでしょう。そして、家族でならわしを楽しむことにより、家族のつながりが深まっていく。そうして、大人も子どもも人生を充たしていってほしいと思います。
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profile
- 広田千悦子さん
- 日本の行事・歳時記研究家。文筆家。新聞や雑誌、WEBにてコラム・挿絵を執筆するほか、ラジオ、TVなどのメディアにも出演。築75年の日本家屋スタジオ「秋谷四季」をはじめ各地で、四季にまつわるワークショップを開催している。
関連サイト
広田千悦子オフィシャルサイト