ログイン / 会員登録

▼リフォームをお考えの方

MISAWA HOME LOUNGE Reform

▼土地活用・賃貸経営をお考えの方

MISAWA HOME LOUNGE 土地活用・賃貸経営

トップ - THINK LIFE / ライフスタイルを考える - 災害心理においては、臆病になることが重要です

interview

災害心理においては、
臆病になることが重要です

日本防火・危機管理促進協会 主任研究員
野上 達也さん

「人はまれにしか起きない
災害を意識することが苦手です。
だからこそ、災害に対して
臆病になることが重要なのです」。
災害心理学の研究を続けてきた
野上さんに防災の心構えを伺った

  • 災害心理学を研究してきました
    災害心理は、1950年ころからアメリカで研究が進められてきました。心理学の視点から災害意識や避難行動を捉えて、災害対策に役立てようというものです。私は心理学を18年、災害心理学を10年以上、研究してきました。「なぜ、備蓄は気が進まないのか」「台風などのニュースを知りながら、なぜ避難が遅れたのか」などと思った方も多いはずです。それは人の本質的な心理に原因がありました。

    災害対策として正しい行動を
    日本という自然災害多発国に暮らすなら、災害心理を知って役立ててほしい。人の本質的な心理を知ることで、"選びがちな行動"ではなく、災害対策として正しい行動を選択してほしいと思います。そのことが防災や減災につながっていきます。
  • 写真5

  • 人は災害を意識することが苦手です
    1980年初頭に東大の研究チームが、津波被害の多い大船渡市の住民800人に「津波が発生したら、どれくらいの被害が発生すると思いますか」と調査しました。町全体の被害については、4割以上の人が「半分以上が壊滅」か「ほとんど全滅」と被害予測をしていましたが、自宅や近隣となると約半分の2割に。そして、自分ヘの被害については8割以上の方が「軽いケガぐらい」「全く無事」と回答していました。

    楽観主義バイアスについて
    これは「被害予測の対象が自分に近くなると、被害予測が軽くなる傾向がある」ということです。他の調査でも同じような傾向が出ていました。人は自分に悪い出来事が起きる確率を低く見積もってしまう、逆に良い出来事が起こることを高く評価してしまうという傾向で、心理学的には「楽観主義バイアス」として知られています。

    防災が続かない理由について
    未来が楽しいと思えるからこそ、毎日を楽しく生きていけるわけです。逆に、人はまれにしか起きない災害を意識することが苦手なのです。それに人は、ものすごく利己的なんですね。人間関係をよくするとか、働くとか、自分の利益になることしかやらない‥‥。長期的なあいまいな利益というのは見えにくいので、災害対策にお金や労力や時間を投資しようと思わない方が多いですね。
  • 写真5

  • 日常のなかに防災を
    しかし、家族を守る、命を守る、そういう重さを考えると、日本に住んでいる以上、災害対策は重要です。多くの人は災害対策を意識することを苦手としていますが、そうであるならば日常の行動のなかに防災を組み込むことが効果的です。たとえば、備蓄で言えば缶詰を買うよりも、毎週1.2回はシリアルを食べる習慣にして、日持ちがするシリアルを多めにストックしておくのがいい。水の備蓄が面倒であれば、ウォーターサーバーにしておけば多少の水備蓄になります。そして、住まいは耐震性能が高くて、備蓄しやすい収納があればいいですね。

    長い距離を走り切るような防災を
    災害対策はマラソンです。災害は、自分の人生を通して一度遭うか、どうかというもの。そういうマラソンを、いきなり全力疾走しても息切れしてしまいます。大きな震災が起こると災害対策の意識や水の備蓄率は一時的に高まりますが、2、3年すると災害前の水準に戻ってしまいます。長距離を走りきるには、自分に合った災害対策をやっていくのがいいですね。
  • 写真5

  • 写真5

  • 人は、すぐに避難しません
    人間は災害が発生しても、すぐ逃げないものです。「森の中でクマが出た」など、明らかに自分の身に危険が迫っている状況であれば、すぐに危険回避行動を選択しますが‥‥。地震で大きな揺れがあっても、すぐに自分の身に危険が降りかかるという判断はできないですね。避難の前に「何が起こっているのだろう(情報収集)」、「家族は大丈夫かな(安否確認)」、「何をもって逃げようか(避難準備)」という段階が入るんです。

    できるだけ早い避難行動を
    東日本大震災の被災者を対象者とした調査によると、4割を超える人たちはすぐに避難していませんでした。これは他の災害に比べれば、避難の割合は高かったのですが、それでも4割‥‥。災害発生時にさきほどの行動に時間を割いてしまえば、必然的に避難の開始が遅れてしまいます。最近増加している風水害は、状況が急変しますから、できるだけ早い避難行動が必要です。

    家族で災害時の行動を決めておく
    それに、通信インフラが途絶することはよくありますから、家族への連絡はすごく難しい。これをやっている間に自分の身が危なくなるというのは東日本大震災でもよくあった事例です。「災害が発生したら、まず自分自身の身の安全の確保を優先しようね」と家族で話しあっておくとか、災害発生時の家族の集合場所を決めておくのは重要ですね。
  • 写真5

  • 災害に対しては臆病に
    「災害は起こらないでしょう」、「災害が起きてもそんなに被害はないでしょう」と思いがちですけど、一度の災害で命を落としてしまうことも充分に起こりえます。自然の力を軽視してはいけません。災害に対して臆病になることこそが、人が真っ先に取り組むべき災害対策です。

    災害用語にも詳しくなりましょう
    たとえば、ニュースで一時間50ミリの雨と聞いても、ほとんどの人はどれくらい危ないか分からないでしょう。しかし、50ミリは異常なレベルで外出は避けるべきであり、浸水想定区域であれば洪水を警戒しなければならない。そういう災害用語を学ぶなどして、災害という危険に対するアンテナを張ったほうがいいと思います。

    家族で災害の情報入手を
    人は、自分の考えたくないことを見たくないものです。自分にとっての都合が悪い情報は無視するか、注意を払わない傾向があるんです。しかし、それを知ったうえで、家族で災害のニュースやドキュメンタリーを見ておけば、災害意識が一歩進んでいきます。ぜひ、災害に対して臆病になっていただきたいです。

    撮影:ミサワホーム「CENTURY 蔵のある家」西新井展示場
  • 写真6

profile

野上 達也さん写真
野上 達也さん
一般財団法人日本防火・危機管理促進協会 主任研究員、明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科 兼任講師。筑波大学大学院人間総合科学研究科博士後期課程修了、博士(心理学)。専門は社会心理学、研究テーマは匿名状況やインターネット上、災害発生前後の行動傾向など。東日本大震災を機に、災害心理の研究を深めている。主な著書に「災害発生時における自治体組織と人のマネジメント(共著第一法規、2018年)」、「Who panics and when: A commonly accepted image of disaster panic in Japan」(単著、アメリカ心理学会、2016年)など。

関連サイト
日本防火・危機管理促進協会ホームページ

information

災害から家族と自分を守る「災害心理」の基礎知識
国内外の学術研究の成果に基づきながら災害にかかわる心理と行動を解説。前半は、備蓄行動や避難行動などを取り上げながら、「災害発生前後の心理と行動傾向」を。後半は、過去の災害事例と先行研究の結果を踏まえながら、パニックや略奪などの「災害発生後に発生すると思われている行動」の実態について説明している。出版社/セルバ出版(2021/3/29発売)