2017年度グランプリ受賞デザイナー
川喜田和也
kazuya kawakita
「伉儷(こうれい)のシュシュ」で2017年度のグランプリを受賞した、
ミサワホーム北海道のデザイナー、川喜田和也。
北海道を愛する川喜田は、空気感を大切にし、対話を重ね、
お客様と一緒に住まいを創り上げていくことにこだわっていると語ります。
受賞作「伉儷のシュシュ」
「伉儷
のシュシュ」の意味はなんですか?そしてどのような住まいなのでしょうか?「伉儷」は「夫婦」、「シュシュ」はフランス語の「お気に入り」という意味です。「伉儷」という読みづらい漢字と「シュシュ」という読みやすいカタカナでバランスを取ったネーミングです。
ご依頼いただいたのは、北海道にお住まいの4人家族です。奥様は「カワイイ」お住まいを、ご主人は「モダン」なお住まいをご要望でした。このようにご夫婦でお好みが異なる場合、通常だと例えば「洗面所は可愛くして、寝室は格好良くする」といった〈空間で区切る〉ご提案をすることが多いのです。ですが今回は同じ空間の中で、部分的に近くで見ると「カワイイ」けれど、遠目で全体を見ると「モダン」に見えるような、ミックスの手法を採用しました。
そのミックスを実現した象徴的なところはどのような部分でしょうか?
そうですね、例えばダイニングキッチン。ペンダントライトは、トーヨーキッチンのクランカーという照明です。近くで見るとシャンデリアのクリスタルのようで「カワイイ」ですが、遠目から見るとステンレスのバーが水平を強調していて「モダン」なものを選んでいます。
また、キッチンのタイルは馬目地というタイルを半分づつずらして貼る方法を用いています。女性の客層が多いカフェの内装などで見かけるこの貼り方は。これも近くで見ると「カワイイ」のに、しかし、選んでるタイル自体は少しモダンなタイルなので遠くから見ると「モダン」になっています
エントランスにも同様のミックスがあります。玄関を開けると間接照明により、床から光が出ているので視線が下に行きます。でも、奥に行くにしたがって天井の間接照明が明るく見えるので、視線が上に行きます。このときに見える天井の曲線(この曲線は四分の一円弧で、ミラーに反射して半円を描いています)が、「カワイイ」要素です。でも、エントランス全体を見ると「モダン」なのです。
住宅に関わっていると、ご家族と接する機会が多くなります。それは私としてはとても面白いことです。 例えば、年齢によって家族の関係が変わることがあります。若いころは仕事で忙しくて、夫婦でもすれ違いになるけれど、歳を取るにしたがって時間に余裕ができ、一緒に過ごす時間が長くなります。子どもも成長によって部屋の間取りなどが違ってきます。そんな家族の面白さをお客様から教えていただいていますし、そんなご家族の関係を大切にしたいと思っています。
デザイン・設計についての川喜田さんの哲学を聞かせてください。
お客様の“空気感”を読むことを大切にしています。棚の奥行きを説明する時も「45cmくらいです」と説明したほうがいい方と「455mmです」と説明したほうがいい方がいらっしゃいます。そんな、些細なところですが、相手の方が心地よいと思う空気感を大切にしています。
例えば、猫を飼っている人と犬を飼っている人では全く違います。ある猫を飼っている方が「猫は自分自身を人間より上の存在だと思っている」とおっしゃるので、私がご提案したのは、天井の間接照明の部分がキャットウォークになっているデザインです。上にいる猫は照明で後光が差して、ソファーに座っている人間を見下ろすしたカタチになります。こんなストーリーを考えると、「猫が入れるサイズはどのくらいだ」とか、「毛玉を吐いた場合はどうする」などの発想が生まれ、お客様とも「うちの猫は大きいからあと3cm 欲しい」などと対話が生まれます。
このように、設計のすべてに意味があり、寸法にも根拠があるのが理想ですね。
「シンプル・イズ・ベスト」など、ミサワホームのデザイン哲学とご自身が共鳴する点はありますか。
シンプルだけが全てではありませんが、もちろんその哲学には共感します。私は、アディダスのスニーカー「スタンスミス(STAN SMITH)」が好きなのですが、真っ白でまさにシンプル・イズ・ベスト。10代でも20代でも、それこそ60代の人が履いても格好良い。そんな感覚はとても好きです。 一般的にハウスメーカーは効率を求めます。いっぽう、デザイナーは非効率的なことをやりたがるもの。矛盾するものです。しかし、ミサワホームには、良い空間を作るための手間を惜しまない良い風土があります。私がミサワホームを好きな理由です。
住宅以外にデザインしてみたいものはありますか?
抽象的になってしまいますが、「食べられる家」とか、「着られる家」とか、そういうものを作りたいと漠然と考えています。 例えば、家に帰ってきて、コートを窓にかけたら、コートがカーテンになるとか。じゃ、着ていたのはコートなのかカーテンなのか、みたいな「境」がないところに興味があります。いつも「境」に対して違和感を持って、疑い続けたい。「境」をなくすことで違う何かが得られると思います。
「境がない」とは、例えばどういうことでしょう?
私は、玄関のエントランスはいらないと思っています。エントランスの基本的な役割は、寒さを遮断することとプライバシーを守ることです。断熱性の高い玄関ドアがあれば寒さは防げます。それに、ネットとスマートフォンで人々が繋がっている今は、玄関先で長々と井戸端会議をする時代ではありません。「玄関のエントランスはいるのか?」ということを考え、疑う。スマートフォン1台で持たなくてよくなったものっていっぱいあるのに、住宅の間取りだけはあまり変わっていない。そんな状況を疑い続けることを目標にしたいと思っています。
川喜田和也
かわきたかずや
ミサワホーム北海道 デザイン部
1984年、北海道に生まれる。大学で建築を学び、
ミサワホームに入社。営業を経てデザイン部に配属。
2017年度
グランプリ受賞デザイナー
川喜田和也
kazuya kawakita
受賞作「伉儷のシュシュ」
「伉儷(こうれい)のシュシュ」で2017年度のグランプリを受賞した、
ミサワホーム北海道のデザイナー、川喜田和也。
北海道を愛する川喜田は、空気感を大切にし、対話を重ね、
お客様と一緒に住まいを創り上げていくことにこだわっていると語ります。
「伉儷
のシュシュ」の意味はなんですか?そしてどのような住まいなのでしょうか?「伉儷」は「夫婦」、「シュシュ」はフランス語の「お気に入り」という意味です。「伉儷」という読みづらい漢字と「シュシュ」という読みやすいカタカナでバランスを取ったネーミングです。
ご依頼いただいたのは、北海道にお住まいの4人家族です。奥様は「カワイイ」お住まいを、ご主人は「モダン」なお住まいをご要望でした。このようにご夫婦でお好みが異なる場合、通常だと例えば「洗面所は可愛くして、寝室は格好良くする」といった〈空間で区切る〉ご提案をすることが多いのです。ですが今回は同じ空間の中で、部分的に近くで見ると「カワイイ」けれど、遠目で全体を見ると「モダン」に見えるような、ミックスの手法を採用しました。
そのミックスを実現した象徴的なところはどのような部分でしょうか?
そうですね、例えばダイニングキッチン。ペンダントライトは、トーヨーキッチンのクランカーという照明です。近くで見るとシャンデリアのクリスタルのようで「カワイイ」ですが、遠目から見るとステンレスのバーが水平を強調していて「モダン」なものを選んでいます。
また、キッチンのタイルは馬目地というタイルを半分づつずらして貼る方法を用いています。女性の客層が多いカフェの内装などで見かけるこの貼り方は。これも近くで見ると「カワイイ」のに、しかし、選んでるタイル自体は少しモダンなタイルなので遠くから見ると「モダン」になっています
エントランスにも同様のミックスがあります。玄関を開けると間接照明により、床から光が出ているので視線が下に行きます。でも、奥に行くにしたがって天井の間接照明が明るく見えるので、視線が上に行きます。このときに見える天井の曲線(この曲線は四分の一円弧で、ミラーに反射して半円を描いています)が、「カワイイ」要素です。でも、エントランス全体を見ると「モダン」なのです。
住宅に関わっていると、ご家族と接する機会が多くなります。それは私としてはとても面白いことです。 例えば、年齢によって家族の関係が変わることがあります。若いころは仕事で忙しくて、夫婦でもすれ違いになるけれど、歳を取るにしたがって時間に余裕ができ、一緒に過ごす時間が長くなります。子どもも成長によって部屋の間取りなどが違ってきます。そんな家族の面白さをお客様から教えていただいていますし、そんなご家族の関係を大切にしたいと思っています。
デザイン・設計についての川喜田さんの哲学を聞かせてください。
お客様の“空気感”を読むことを大切にしています。棚の奥行きを説明する時も「45cmくらいです」と説明したほうがいい方と「455mmです」と説明したほうがいい方がいらっしゃいます。そんな、些細なところですが、相手の方が心地よいと思う空気感を大切にしています。
例えば、猫を飼っている人と犬を飼っている人では全く違います。ある猫を飼っている方が「猫は自分自身を人間より上の存在だと思っている」とおっしゃるので、私がご提案したのは、天井の間接照明の部分がキャットウォークになっているデザインです。上にいる猫は照明で後光が差して、ソファーに座っている人間を見下ろすしたカタチになります。こんなストーリーを考えると、「猫が入れるサイズはどのくらいだ」とか、「毛玉を吐いた場合はどうする」などの発想が生まれ、お客様とも「うちの猫は大きいからあと3cm 欲しい」などと対話が生まれます。
このように、設計のすべてに意味があり、寸法にも根拠があるのが理想ですね。
「シンプル・イズ・ベスト」など、ミサワホームのデザイン哲学とご自身が共鳴する点はありますか。
シンプルだけが全てではありませんが、もちろんその哲学には共感します。私は、アディダスのスニーカー「スタンスミス(STAN SMITH)」が好きなのですが、真っ白でまさにシンプル・イズ・ベスト。10代でも20代でも、それこそ60代の人が履いても格好良い。そんな感覚はとても好きです。 一般的にハウスメーカーは効率を求めます。いっぽう、デザイナーは非効率的なことをやりたがるもの。矛盾するものです。しかし、ミサワホームには、良い空間を作るための手間を惜しまない良い風土があります。私がミサワホームを好きな理由です。
住宅以外にデザインしてみたいものはありますか?
抽象的になってしまいますが、「食べられる家」とか、「着られる家」とか、そういうものを作りたいと漠然と考えています。 例えば、家に帰ってきて、コートを窓にかけたら、コートがカーテンになるとか。じゃ、着ていたのはコートなのかカーテンなのか、みたいな「境」がないところに興味があります。いつも「境」に対して違和感を持って、疑い続けたい。「境」をなくすことで違う何かが得られると思います。
「境がない」とは、例えばどういうことでしょう?
私は、玄関のエントランスはいらないと思っています。エントランスの基本的な役割は、寒さを遮断することとプライバシーを守ることです。断熱性の高い玄関ドアがあれば寒さは防げます。それに、ネットとスマートフォンで人々が繋がっている今は、玄関先で長々と井戸端会議をする時代ではありません。「玄関のエントランスはいるのか?」ということを考え、疑う。スマートフォン1台で持たなくてよくなったものっていっぱいあるのに、住宅の間取りだけはあまり変わっていない。そんな状況を疑い続けることを目標にしたいと思っています。
川喜田和也
かわきたかずや
ミサワホーム北海道 デザイン部
1984年、北海道に生まれる。大学で建築を学び、
ミサワホームに入社。営業を経てデザイン部に配属。