2018年度グッドデザイン賞受賞デザイナー
加藤 公太
kouta katou
受賞作「KAMAKURA-SOU」
KAMAKURA-SOUのコンセプトを教えていただけますか。
設計をする際に、いつも重視しているのは自然と人と建築の3つの関係性です。この作品では建築を自然に解放し、住まう人がその中に癒やしを見つけ出せる、そんな「都会の別荘」をつくりたいと考えました。ネーミングにもそんな想いが表れています。自然を満喫し、友人との集いを愉しみ、それでいて日々の家族の生活がある住まい。別荘で味わう豊かな時間が日常にある暮らし。そんな都会の別荘をつくるため、あえて通りからは程よく閉じた建築にしてご家族のプライバシーを守り、通りと庭をつなぐ中間領域を配して居住空間や庭という内と街としての外をつなぎ、近隣とのお付き合いを自然に誘発する仕掛けを設けました。
居住空間にもつながるための仕掛けが施されていますね。
KAMAKURA-SOUの重要な要素の一つが、広大な庭です。庭は屋外という意味では外であり、住まいという視点では内でもあります。この庭が、「つながり」をつくる大切な要素でした。たとえば、1階のLDKには庭に向かって南面と東面に大開口を設け、天井と軒天、床とテラスという屋内と半屋外の高さと素材を揃えることで、庭の自然と室内を一体化させ、のびやかな開放感が生まれるようにしました。なかでも、木枠で縁取られたラフ開口2.8mの「木の窓」は、天井の杉板や床のチークと調和しながら内外を滑らかにつないでくれています。また、壁と床、壁と窓といった異なる仕上げ部分の納まりである見切りにも徹底的にこだわりました。見切りが美しいと、空間全体に上質感が生まれるからです。
エントランスにデッキが設けられているのはなぜでしょう。
実は、このデッキが設計コンセプトを最も表しているといえるかもしれません。通りに面した閉じた外観に一部分だけ切りとったような開口があり、門扉からデッキを渡って庭へと通り抜けられるようになっています。通りという外と庭という内をつなぐ仕掛けが、まさにこのデッキです。ここにはデッキと同じセラン材でつくった幅10mのベンチを設け、屋根のある半屋外空間にしました。晴れた日には風を感じながら刻々と表情を変える木漏れ日を眺め、雨の日はしっとりとした風情を味わう。そんな自然をダイレクトに感じながら憩いの時間を過ごしてほしい。そんな空間があれば、暮らしの幅も広げてくれると考えたのです。私自身、ここが一番好きな場所ですね。
そこでどんな暮らしを実現してほしいと考えたのでしょうか。
鎌倉は都会的な面もありながら、今も自然の魅力が満喫できる場所。また、明治時代から別荘地として栄え、独特の文化を育んできました。ここに住まうご家族が、そうした風景と文化を愉しみながら暮らし、そこに溶け込む建築であることを実現したいと思いました。また、日常生活に必要な機能性をしっかり確保して心地よく暮らしながら、庭やデッキで気軽にアウトドアライフを楽しむなど、ご家族が自由に豊かな時間を過ごすことができたらという想いがありました。
オーナーさまからはどんなご要望があったのでしょう。
別荘のような住まいをつくりたい。そして、庭を広くとって建物を庭に開く、水平ラインを強調したデザインにする、といった明確なご要望がありました。また、1階は空間の仕切りをできるだけ減らしてオープンにし、寝室や子ども部屋、浴室といった生活空間を2階にまとめたいとのこと。さらには、自然の風がよく通ることにもこだわられていました。それに対し、直観的に、1階は天井と床に挟まれたような空間にして大開口を設け、外へ広がる視界によってのびやかな開放感が演出できるとご提案。北面の玄関ホールの先にも小さな中庭をつくり、窓を開ければ南北の通風が叶う設計にしました。
どんなコミュニケーションを取りながら進めたのでしょうか。
オーナーであるAさまは決断力があり、ご自分が決めるべきこと、私たちに任せるべきことをはっきりと分けて考えていましたので、打ち合わせは無駄な時間の少ない充実したものでした。その際、共通のルールを設けたことも、たいへん役立ちました。たとえば、水平を途切れさせずにつなぐ、木と石は自然素材のものを、金属はマットなものを使う、巾木などの見切り材はウォールナットにするといった具合に、ルールを設定することで、全体がばらばらにならず、高いレベルでの調和が可能になったと思います。
オーナーであるAさまに、住み心地についてお聞きしました。
朝起きて、ダイニングにあるいつもの椅子に座って庭を眺め、コーヒーを飲む。それだけで、気持ちがいい。実に気分がいいんです。門扉からちらりと庭が見え、玄関に入ると正面に中庭があって、そしてリビングの扉を開けると大開口全体に庭が映り込む。この動線と視線の流れを考えた加藤さんの絶妙な仕掛けに、改めて「なるほど!」とうなずきました。また、当初はまばらだった庭の植栽も、今では定期的に手を入れなくてはならないほど豊かになりました。しかも、どの季節でも何かしらの葉や花が色づくように計画されていることもあって、窓には四季折々に賑わう木々や花々が広がります。住まいから何が見えるのか。その風景は、とても大事なんだと気づかされました。夫婦ともに「内と外のつながり」にこだわっていましたので、デザインはもちろん、住み心地についても大変満足しています。
設計において大切にしていることは何でしょうか。
内外の連続性によって静穏な空間をつくるというのが、設計のポリシーです。なぜなら、静穏な空間は住まう人に落ち着きや心地よさをもたらし、そうした空間が暮らしをより穏やかで豊かなものしてくれると考えているからです。鎌倉は、仕事をする機会が多く、私にとっても思い入れのある地域です。この建物を通して、その土地が持つ魅力をいかに生かしたらいいのか、その大切さをあらためて学びました。そして、これからは表層的なものではなく、住まう人の五感に訴えかけるような心ある建築をつくっていきたい。そんな意欲を掻き立てられています。
2018年度グッドデザイン賞
受賞デザイナー
加藤 公太
kouta katou
受賞作「KAMAKURA-SOU」
KAMAKURA-SOUのコンセプトを教えていただけますか。
設計をする際に、いつも重視しているのは自然と人と建築の3つの関係性です。この作品では建築を自然に解放し、住まう人がその中に癒やしを見つけ出せる、そんな「都会の別荘」をつくりたいと考えました。ネーミングにもそんな想いが表れています。自然を満喫し、友人との集いを愉しみ、それでいて日々の家族の生活がある住まい。別荘で味わう豊かな時間が日常にある暮らし。そんな都会の別荘をつくるため、あえて通りからは程よく閉じた建築にしてご家族のプライバシーを守り、通りと庭をつなぐ中間領域を配して居住空間や庭という内と街としての外をつなぎ、近隣とのお付き合いを自然に誘発する仕掛けを設けました。
居住空間にもつながるための仕掛けが施されていますね。
KAMAKURA-SOUの重要な要素の一つが、広大な庭です。庭は屋外という意味では外であり、住まいという視点では内でもあります。この庭が、「つながり」をつくる大切な要素でした。たとえば、1階のLDKには庭に向かって南面と東面に大開口を設け、天井と軒天、床とテラスという屋内と半屋外の高さと素材を揃えることで、庭の自然と室内を一体化させ、のびやかな開放感が生まれるようにしました。なかでも、木枠で縁取られたラフ開口2.8mの「木の窓」は、天井の杉板や床のチークと調和しながら内外を滑らかにつないでくれています。また、壁と床、壁と窓といった異なる仕上げ部分の納まりである見切りにも徹底的にこだわりました。見切りが美しいと、空間全体に上質感が生まれるからです。
エントランスにデッキが設けられているのはなぜでしょう。
実は、このデッキが設計コンセプトを最も表しているといえるかもしれません。通りに面した閉じた外観に一部分だけ切りとったような開口があり、門扉からデッキを渡って庭へと通り抜けられるようになっています。通りという外と庭という内をつなぐ仕掛けが、まさにこのデッキです。ここにはデッキと同じセラン材でつくった幅10mのベンチを設け、屋根のある半屋外空間にしました。晴れた日には風を感じながら刻々と表情を変える木漏れ日を眺め、雨の日はしっとりとした風情を味わう。そんな自然をダイレクトに感じながら憩いの時間を過ごしてほしい。そんな空間があれば、暮らしの幅も広げてくれると考えたのです。私自身、ここが一番好きな場所ですね。
そこでどんな暮らしを実現してほしいと考えたのでしょうか。
鎌倉は都会的な面もありながら、今も自然の魅力が満喫できる場所。また、明治時代から別荘地として栄え、独特の文化を育んできました。ここに住まうご家族が、そうした風景と文化を愉しみながら暮らし、そこに溶け込む建築であることを実現したいと思いました。また、日常生活に必要な機能性をしっかり確保して心地よく暮らしながら、庭やデッキで気軽にアウトドアライフを楽しむなど、ご家族が自由に豊かな時間を過ごすことができたらという想いがありました。
オーナーさまからはどんなご要望があったのでしょう。
別荘のような住まいをつくりたい。そして、庭を広くとって建物を庭に開く、水平ラインを強調したデザインにする、といった明確なご要望がありました。また、1階は空間の仕切りをできるだけ減らしてオープンにし、寝室や子ども部屋、浴室といった生活空間を2階にまとめたいとのこと。さらには、自然の風がよく通ることにもこだわられていました。それに対し、直観的に、1階は天井と床に挟まれたような空間にして大開口を設け、外へ広がる視界によってのびやかな開放感が演出できるとご提案。北面の玄関ホールの先にも小さな中庭をつくり、窓を開ければ南北の通風が叶う設計にしました。
どんなコミュニケーションを取りながら進めたのでしょうか。
オーナーであるAさまは決断力があり、ご自分が決めるべきこと、私たちに任せるべきことをはっきりと分けて考えていましたので、打ち合わせは無駄な時間の少ない充実したものでした。その際、共通のルールを設けたことも、たいへん役立ちました。たとえば、水平を途切れさせずにつなぐ、木と石は自然素材のものを、金属はマットなものを使う、巾木などの見切り材はウォールナットにするといった具合に、ルールを設定することで、全体がばらばらにならず、高いレベルでの調和が可能になったと思います。
オーナーであるAさまに、住み心地についてお聞きしました。
朝起きて、ダイニングにあるいつもの椅子に座って庭を眺め、コーヒーを飲む。それだけで、気持ちがいい。実に気分がいいんです。門扉からちらりと庭が見え、玄関に入ると正面に中庭があって、そしてリビングの扉を開けると大開口全体に庭が映り込む。この動線と視線の流れを考えた加藤さんの絶妙な仕掛けに、改めて「なるほど!」とうなずきました。また、当初はまばらだった庭の植栽も、今では定期的に手を入れなくてはならないほど豊かになりました。しかも、どの季節でも何かしらの葉や花が色づくように計画されていることもあって、窓には四季折々に賑わう木々や花々が広がります。住まいから何が見えるのか。その風景は、とても大事なんだと気づかされました。夫婦ともに「内と外のつながり」にこだわっていましたので、デザインはもちろん、住み心地についても大変満足しています。
設計において大切にしていることは何でしょうか。
内外の連続性によって静穏な空間をつくるというのが、設計のポリシーです。なぜなら、静穏な空間は住まう人に落ち着きや心地よさをもたらし、そうした空間が暮らしをより穏やかで豊かなものしてくれると考えているからです。鎌倉は、仕事をする機会が多く、私にとっても思い入れのある地域です。この建物を通して、その土地が持つ魅力をいかに生かしたらいいのか、その大切さをあらためて学びました。そして、これからは表層的なものではなく、住まう人の五感に訴えかけるような心ある建築をつくっていきたい。そんな意欲を掻き立てられています。