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トップ - THINK LIFE / ライフスタイルを考える - 明るすぎる時代に暗さの価値を考えよう

interview

明るすぎる時代に
暗さの価値を考えよう

東京都市大学 教授
小林 茂雄さん

生活空間の明るさが増している。
しかし、暗さには人を落ち着かせ、
関係を深め、思考を深める力がある。
光環境を研究している小林さんに、
暗さの価値を教えてもらった

  • 明るさが増している
    LEDが住宅の照明に使われるようになったのは2010年以降です。LEDは蛍光灯に比べて、長持ちしますし、熱をあまり発せないので、間接照明や家具などいろいろな場所に使われるようになりました。しかも、省エネですので、電気代を気にしなくていい。明るくすることに抵抗がなくなり、生活空間は必要以上に明るくなっています。

    暗さのメリットは、気づかれにくい
    明るくするメリットは、誰にでもわかりやすい。「よく見える」「安心できる」「防犯性が高い」とか。人は、暗くて問題があるから「明るくしよう」と意識的にスイッチを入れやすいんですね。でも、暗くすることのメリットは、気づかれにくい。暗い環境は、私たちの心理や行動、さらには身体のリズムにまで、ゆっくりと作用します。暗くすることで親密な対話、深い睡眠、静かな思考がもたらされるのですが、日常のなかでそれらは意識されづらいのです。
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  • うす暗いと心を開く場に
    私たちの研究室の実験や海外の知見でも確認されていることですが、明るい照明は議論・討論・作業といった活動的なコミュニケーションに向きます。一方、うす暗い環境は、会話の速度がゆっくりとなり、声量が小さくなる、姿勢が前のめりではなく、柔らかくなる。そして、打ち明け話や悩み、相談が生まれやすくなるんです。少し照明が落ちるだけで、空間は共有する場所から"心を開く場"へと変わっていきます。

    距離が縮まるのは、なぜか
    暗ければ暗いほど、人と人との距離は近づきやすいものです。「暗いと相手の表情を読み取るために、互いに顔を見つめ合う時間が長くなる」という結果を得ています。特に、カップルや女性同士は、その傾向が強く「相手の感情を理解しようという認知の働き」が活性化します。この無意識の行為が、少しずつ関係を深めていくのです。

    ヨーロッパのレストランが暗い理由
    ヨーロッパでは、レストランの格が高いほど、店内は暗くなる傾向があります。テーブルにろうそくが1本あるぐらいす。料理そのものより「そこにいる人との関係性に価値を置いているから」だと言えます。住宅でも同じで、食事の意味を理解している家庭ほど、照度を落とし、ダイニングを人間関係の中心に据えています。日本の「食卓=明るく照らす場所」という図式とは、異なる文化があるといえます。
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  • 夜は暗いほうが自然です
    私たちは、太陽の光に同調するように、10万年以上かけて24時間の生体リズムをつくってきました。昼は太陽の光を浴びて活動して、夜は光を浴びないことで休息状態に入るのです。夜になると、体温・血圧・心拍数が下がってきて、メラトニンという睡眠を促すホルモンが分泌されます。夜に強い明かりを浴びてしまう現代人は、メラトニンの分泌が妨げられ「寝つきにくい・眠りが浅い」といった問題が起きやすくなっています。

    暖色系の柔らかな光に
    日没後は暖色系の柔らかな光が身体に合っています。私は自宅で、玄関・寝室・トイレ・浴室は夕日と全く同じ光色(2000ケルビン)の照明にしています。これまでの研究でも「昼間は白色光で活動をサポートし、夜は暖色光で落ち着きを与えることが生体リズムに合っている」というデータが一貫して示されています。

    眠ようとする1時間前から暗くする
    特に寝る前の照明環境が重要です。私たちの実験では、寝る直前ではなく「寝ようとする1時間前から照明を徐々と暗くしていくと、深い睡眠を得やすい」という結果を得ています。寝室では上から目に入る照明は避けたいので、柔らかな間接照明が適しています。リラックスしたいときも同様ですね。
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    写真は、CENTURY Primore

  • 暗さは思考を深める装置
    明るい環境では、視界の中心に注意が集中しやすいものです。でも、うす暗い環境では、中心と周辺のコントラストが弱まり、視野が広がっていきます。そうすると、人は外界より"内側"に意識を向けやすくなります。ひとりで考えごとをする、アイデアを育てる、感情を整理するなど。こうした行為の多くは、暗い環境のほうが進みやすいのです。暗さとは、単に暗所ではなく、自分に向き合うための余白を生み出す環境装置と言えます。

    実際に見えていることは、重要です
    遠くのものが見えていることは重要です。たとえば、暗くなって星が見えることだけでも、その影響は大きいですね。星が見えるというのは、何万光年先から届いた光を目にしていることを意味します。そのスケールを感じるだけで、自分の小ささや地球環境の脆さを想像できるようになります。見えることは、考えるきっかけになります。見えていないものには、想像力が働かないですから。

    暗さが認められる時代へ
    自然のなかでキャンプしていると、夜になると風や虫の音、空気の温度の変化を感じます。夜のほうが、いろんなものを感じるのです。暗いことが、五感を研ぎ澄まし、感性を強くします。住宅に関しても、これからは必要な明るさを確保するだけでなく「どのように暗さを残すか」が重要なテーマになると思います。暗さとは、欠けた光ではなく、人を豊かにする環境資源なのです。私は30年後には「暗くていいね」と言われる社会が必ず来ると考えています。

    撮影:「CENTURY 蔵のある家」 川崎中原展示場(神奈川県川崎市)
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profile

小林 茂雄さん 写真
小林 茂雄さん
東京都市大学 建築都市デザイン学部建築学科 教授。建築光環境と環境心理を専門とし、特に低輝度の屋外光環境計画と、照明の対人行動への影響を研究。東京工業大学工学部建築学科卒、同大学院、助手を経て、武蔵工業大学(現・東京都市大学)教授。「人の行為を軸とした建築環境の評価に関する研究」で日本建築学会賞(論文)受賞。照明計画では、気仙沼内湾ウォーターフロント(共同:ぼんぼり光環境計画)などに関わる。

関連サイト
小林研究室|東京都市大学建築学科

information

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