INNOVATE NEXT [大収納空間:蔵 開発秘話]

02 INNOVATE NEXT 空間収納の、その先へ。

収納を増やしながら、
生活空間を広げる逆転の発想。

FAXに描かれた断面図スケッチが、
すべての始まりだった。

ミサワホームは、日本古来の収納スペースである「蔵」を現代の住まいに取り入れた新しい発想の住まい「蔵のある家®」を開発。消費者の心を捉え、今なおロングセラーを続けている。日本人が住まいに関してもっとも不満に思っていることは、収納スペースが足りないことだと言われている。実は、「蔵のある家®」の開発には数奇なストーリーがあった。
主役は創業以来、経営の面からミサワホームを背負ってきた山本幸男。夫婦で骨董収集を趣味としていた山本は、かねてから日本古来の「蔵」に注目していた。「蔵」とは、古くより活用されてきた住まいの収納空間であり、屋根裏の空間を活かして作られる「蔵」も多く見られる。しかし屋根裏では、貴重で重量もある骨董品を
運び保管しておくにはあまりに不便だ。そこで山本が目をつけたのが、屋根裏ではなく一階の天井裏の空間だった。一階の天井裏なら、一階からも二階からもアクセスしやすい。その空間を「蔵」として活かせないか。密かにアイディアをあたためていた山本だったが、1985年の航空事故で突如帰らぬ人となった。
それから5年ほど経った年の年末に、山本の遺志を伝える1枚のFAXが、社長室から設計課に送られてきた。内容は1階と2階の間の空間を収納とする建物の断面のラフスケッチだった。「このスケッチをもとに新商品を考えなさい」の言葉とともに。このようにして、「蔵のある家®」の開発プロジェクトが動き出したのである。

成否のカギは、
二階建ての認可。

新発想の住宅「蔵のある家®」は、当初は社内の営業サイドからキワモノ扱いされていた。それは、三層構造を持つ「蔵のある家®」が「二階建」として認可されなければ、実質、住宅地に建てることが難しく、消費者にとってメリット
がないからだ。「蔵のある家®」成否のカギはここにあったのだが、突破口の見えないままアイデア倒れに終わってしまうかと思われた。そんな時、大きな出来事が起こった。東京のウォーターフロントに建設されたマンションで、
従来なら認められなかったプランの建築確認申請が行政によって受理されたのだ。当時、政府では豊かな生活をバックアップするさまざまな施策を打ち出しており、住宅業界でも「ゆとり」をキーワードに住宅事情の改善を図る空気が生まれようとしていた。35階建の最上階にあるペントハウスのリビングに、通常より高い天井高をとり、キッチンなどの水廻りの天井部分を収納空間として利用していたそのマンションは、まさにその
追い風に乗ったと言えるものだった。「これは蔵のある家に命を吹き込むチャンスだ。」すぐに認可のための資料作りが開始された。日本の住宅史上初となるこの取り組みに、認可への道のりは困難を極めた。何度も内容を練り直した末、建築基準法の認定がようやくおりたのは、プロジェクト始動からはやくも3年が経過した1993年12月のことであった。

そして、
日本の収納の
新スタンダードへ。

1996年、「蔵のある家®」は住宅業界で初めてグッドデザイン賞グランプリを受賞した。それは、生活を変える商品力が評価された証だった。だが、工業デザインや住宅業界での評価よりも大事なの
は、ユーザーに受け入れてもらうこと。広くユーザーに受け入れられてこそ、スタンダードな住まいとして定着する。実はそのころ「蔵のある家®」は、自治体からノーの判定をくだされるケースが
発生していたのである。当時の建設省からは「二階建」の認可を得ていたが、「蔵」の面積を床面積として参入しない自治体は、全国の3分の1程度にとどまっていた。「よし、それではこちらから出向
いていこう。」そうして社内に自治体説得のための「説明部隊」が結成された。わずか数名の説明部隊は、都道府県や政令指定都市の担当者を訪ねては「蔵」がゆとりの空間だという原点から説き起こし、政府の方針に乗ったものだということを強調した。彼らみなが手にしていたのは説明のための冊子と、1枚の日本地図だった。説明に納得してもらった都市を黒く塗りつぶしていくためだった。
靴の底がすり減るに連れ、まだら模様が次第に日本の形になっていった。「蔵が徐々に認められていくのが本当にうれしかったですね。」そして、従来より住まいの不満ナンバーワンであった収納問題を解消した「蔵のある家®」は、2018年度までに累計7万棟を
突破。名実ともに住まいのスタンダードな形となったのだ。収納の問題を解決するだけでなく、生活空間までも広げるという発想から「蔵」が生まれたように、これからもミサワホームは、技術と発想力で住まいを進化させていく。

*「蔵のある家」はミサワホーム株式会社の登録商標です。

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