interview
子育て家族の防災を見直そう!
在宅避難できる住まいに
防災アナウンサー
奥村 奈津美さん
東日本大震災を経験した奥村さんは
その後、多くの災害の現場を取材。
「災害のリスクが高まるなか、
子育て家族の防災力UPが必要」と話す。
自宅を最強の避難所にする方法を伺った
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- 2011年3月11日、東日本大震災
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東日本大震災の発生時、私は仙台のマンションにひとりでいました。本当に死の恐怖‥‥オーブンレンジがすぐ横に飛んできました。今でも、当時の光景を思い出すことがあります。震度6を超えると、ピアノや冷蔵庫など重くてとても動かせないものが、地震の揺れで宙を飛び、倒れたり、移動してくることもあります。
震度7の可能性
政府の地震調査委員会は2022年1月に、南海トラフ巨大地震の40年以内の発生確率を90%程度に引き上げました。そして、静岡県から宮崎県にかけての一部では震度7となる可能性‥‥それに隣接する広い地域では震度6の強い揺れが想定されています。
気候危機の時代です
私は災害のたびに全国の被災地を訪ね、取材やボランティア活動に参加させていただいています。被災した方にインタビューすると「これまで経験したことがない」という話をよく聞きます。気候変動ではなく、気候危機と言われるようになりました。過去に経験のない災害が起きているのです。
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- 子育て家族は在宅避難を
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大前提として、ハザードマップを見て「自宅にいても大丈夫なのか」を確認してください。これからも水害が毎年のように起こると思います。浸水被害や土砂災害から逃げないといけない場所もあります。しかし、自宅にいて大丈夫なのであれば、特に小さいお子さまがいるのであれば在宅避難がお勧めです。
子どもにつらい状況です
在宅避難をお勧めするひとつの理由はコロナ禍です。避難所は人が密集してしまうので感染リスクが高まります。もうひとつは、どうしても子どもは、じっとしていられない。体育館など人が多く「静かにしなさい」と言っても、静かにできないのは、ふだんの生活からも想像できると思います。
避難所に入れるとは限りません
しかも、避難所の収容人数は場所によっては少なく、東京都23区では5人に1人程度しか入れません。さらに、コロナ禍の感染対策のため、避難所の収容人数は抑えられています。支援物資は最低限で、水と非常食、毛布があるかどうか。全員に行き渡らないかもしれない。その状況は自治体によってさまざまです。
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- 自宅を最強の避難場所に
- 在宅避難のための備えは、まずは自宅を安全な場所にしておくこと。地震だと、家具・家電の固定、窓ガラスなどの飛散防止、ドアが開かなくなるような場所にモノを置かないなどが必要ですね。また、台風だと、外にモノを置くと危険なので室内にしまうなど、ご自宅の状況により備えを工夫することが必要です。
備蓄の優先順位について
そして重要なのが備蓄です。備蓄の優先順位は、トイレが1位で、次が水、その次がカセットコンロとボンベ、そして電源ですね。東日本大震災では、避難所に仮設トイレが届くまで1週間かかった自治体が半数ほどでした。少なくとも1週間分は水を使わない災害用トイレを用意しておいてください。トイレを選ぶときのポイントは、消臭じゃなくて防臭です。大規模災害になるとゴミの収集が止まってしまうので、保管のことまでを考えておくことが必要です。
子どもには、ふだんの食事を
備蓄は、保存食というイメージがありますが、子どもがいると役に立たないこともあります。3歳の息子に、水で戻すアルファ化米を試したら受け付けなくて‥‥私も東日本大震災のときに食べましたけど、命をつなぐためにはいいのですが、何日も食べ続けるのは難しかったりします。子どもは大人より好き嫌いが強い場合もあり、食べてくれなかったりする‥‥ふだんの食事を多めに備蓄するのがいいですね。
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- プラ1備蓄をお勧めします
- 水とカセットコンロとボンベと食材があれば、ふだんの食事が続けられます。私は、プラ1備蓄をお勧めしています。たとえば、トマト缶を買うのであれば、ひとつじゃなくてふたつ買っておく。ひとつ使ったら、買い足して常にストックがある状態にしておきます。常温保存できるもので、賞味期限内に使いきれるモノを多めに備蓄しておけば安心です。
できれば2週間分の備蓄を
最低でも1週間分、できれば2週間分を備蓄しておきたいですね。南海トラフ巨大地震クラスだと2週間は必要になると思います。国からも、乳幼児やアレルギーがある方などは、必要なものを2週間分は備蓄しておくようにと言われています。ミルク育児の方は、特に液体ミルクや粉ミルク、水、紙コップ、ボンベ※も多めに備蓄しておくことをお勧めします。※ボンベはお湯を沸かすために1日1本必要になります。
自動的に備蓄する仕組みを
私は温泉水が20リットル入っている箱を3箱、用意しています。最近「いいな」と思ったのは、電動自転車のバッテリーをポータブル電源に切り替えられる商品です。日常に使うモノが、防災に役立てられるのが理想です。新しく住まいを考えているのであれば「飲料水貯留システム」や生活用水を取り出せる「エコキュート」や「雨水タンク」を備えておけば、水を自動的に備蓄できます。
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- 自宅で防災トレーニングを
- 保育園では毎月避難訓練を行いますが、自宅で行っている人は少ないと思います。たまに3歳の息子と自宅で避難訓練をやるんですけど「地震」と言うとテーブルの下に入ってダンゴムシのポーズをとるんですよ。大きな地震だと、子どもがいる場所まで走っていって抱えることができないくらいの揺れなんです。だから、子どもに「地震が起きたら、どうしたらいいか」を、日ごろから教えてあげておいてほしいですね。
真っ暗な経験をしておく
子どもは停電して、真っ暗になると、怖くなって親のいるところへ走ってきたりします。そうすると床がどうなっているか分からないので、怪我の原因になります。ふだんの遊びのなかで、ヘッドライトで過ごしてみるなどして、暗闇に慣れておくといいですね。大人もそうですけど、なにごとも経験しておくことで行動が変わります。
快適で防災に強い住まいに
40℃に近い夏が毎年のようにやってきます。今から住まいを建てるのであれば、暑い夏に耐えられる住まいにしておくことが重要です。在宅避難で怖いのは、熱中症。断熱気密性の高い、冷房が効きやすいZEHやLCCM住宅※が望ましいですね。そして、自宅で発電して、自分の家で使っていく住まいは、在宅避難に適しています。これから暑熱災害や豪雨などが増えていくと予測されています。ぜひ、防災を考えた住まいにして備えてください。
※LCCM対応住宅とはライフ・サイクル・カーボン・マイナスの略で、住宅の建設から居住、廃棄までの一生においてCO₂をトータルでマイナスにする住宅のこと。
撮影:ミサワホーム「ミサワパーク東京」(東京都杉並区高井戸)※地震シミュレーターを体験できます。
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profile
- 奥村 奈津美さん
- NHK「おはよう日本」「あさイチ」などさまざまなメディアで「おうち防災」の専門家として出演。東日本大震災を仙台でアナウンサーとして経験。NHK「ニュースウオッチ9」など報道番組を長年担当。防災士、福祉防災認定コーチ、防災教育推進協会講師、防災住宅研究所理事として防災活動を行いながら、環境省 森里川海プロジェクトアンバサダーを務める。最近ではInstagramやTikTokなどを通して、さまざまな世代へ防災情報を発信している。
関連サイト
奥村奈津美 WEBサイト
Instagram@natsumi19820521