

トップ - HomeClub特集 / 住まいのイメージをふくらませる - これからの住まいの価値
2026.11.01
──本日は、建築家・伊藤博之さんと、ミサワホーム山下登教さんにお越しいただきました。自然災害の激甚化やデジタル化による合理性が重視される今、お二人が感じる課題とは何でしょうか。
伊藤 私は集合住宅を手掛けることが多いのですが、特に注力しているのは、建物が高密度化する都市の中で心地よい住環境をどう確保するかです。解決の鍵となるのは、「外部とのつながり」です。居心地のよさって家という箱の中だけで完結するものでなく、街とどう関わり、お向かいの人とどんな気配を交わすかという関係性が左右します。
山下 戸建住宅も同じです。現代は合理性や効率を重視して、「個の充足」が優先されがちで、建築と庭と街が分断される傾向があります。断熱性などの数値的な評価もとても大切ですが、外に対して閉鎖的にするのではなく、光や風の心地よさを取り込んだり周辺環境や近隣とつながることは、防災の観点からも重要ですね。
──地域のつながりが求められる一方、他人との関係をわずらわしく感じる人もいます。
山下 「路地庭のある家」では、庭の安全性を守り外での活動を誘発することで、子どもの声や気配が通りににじみ出る仕掛けをつくりました。庭のモミジが紅葉し、地域の人に季節の移ろいを感じてもらうなど、直接言葉を交わさなくとも、住まいと街を結ぶ間接的コミュニケーションの形と言えるのではないでしょうか。

「路地庭のある家」
建築と外構の一体化で子どもが安心して遊べる中庭を提案。地域とのつながりを育む住まい。
伊藤 「つながり」とは結びつく関係性を求める言葉ですが、我々は同時に「切る」ことも考えなくてはならない。私が設計した集合住宅「天神町place」は、建物に囲まれた薄暗い中庭に光と風を導き、心地よい陰影をつくりました。中庭を囲む建物の中に生活する人々の気配が程よく感じられ、お互いに認識し合える。直接干渉せずとも、建物を介して間接的につながる関係性をデザインしたのです。
山下 中庭を抱え込むようなボリュームによって光や風、視線の抜けを生み出し、住まい手だけでなく周辺環境にも同様の価値を届けている点がとても素晴らしいです。

「天神町place」
都市部の厳しい敷地条件の中で、緑と光に満ちた中庭を実現。
光と風を立体的に導き、住人同士の心地よい距離感と陰影豊かな空間をつくり出した独創的なフォルムの集合住宅。© MasaoNishikawa
――本日の対談場所であるモデルハウス「佇みの家」(詳細は3ページ)も、これからの時代のつながりを提案されていますね。

山下 人の外見にも用いられる「佇まい」という言葉は、単なる見た目ではなく、内面がにじみ出て形成されるもので、建築も同じではないかと考えました。守られた内側に豊かな暮らしを実現しながら、建築と庭が一体となって街に開くことで、住まい手と街とのほどよい関係性を育めると考えています。
伊藤 住まいの居心地のよさは箱の中だけでは決まらないとお話ししましたが、「佇まい」はまさにそこへ通じる考え方ですね。とても共感します。
――住まいの佇まいは、街の美しさに貢献し、街に対する愛着も深めてくれそうです。
伊藤 住まいが長く使われるためには、社会の変化に対応できることが必要です。けれど、予測不可能な変化もあるでしょう。そのときに住み続けたいと思えるかどうかを決めるのは、地域や家に対する愛着です。愛着を育む環境とは、人との関係性だけでなく、光や風、街との関係性といった身体感覚に依存するので、建築の魅力があらためて大切だと感じます。
山下 今は「コト」の時代といわれますが、物体として美観的な視点も重要ですよね。ただ、全部をつくり込みすぎず、住まい手自身が自分を表現できる無作為な「余白」を残すことが、愛着を育むために重要です。このような、愛着やつながりといった目には見えない価値に目を向けて、デザインに昇華することで、自然と永く住まえる方向へ導いていくことも大切だと思います。
伊藤 その場所の状況に耳を澄まし、クライアントの要望に目を凝らす。そういった誠実さで周囲を巻き込んでいくことが理想です。建築家と住宅メーカーがそれぞれの立場で補完し合い、日本の街により良い住宅ストックを残していくことができるといいですね。

伊藤博之
建築家。伊藤博之建築設計事務所代表。工学院大学建築学部建築デザイン学科教授。集合住宅やホテル、オフィスビルなどの設計を幅広く手掛ける。日本建築学会賞、日本建築学会作品選奨、グッドデザイン金賞など、数多くのアワードを受賞。
山下登教
ミサワホーム(株)商品開発部デザイナー。新商品の開発やモデルハウスの設計を通して、これからの住まいを提案。「CENTURY-NEUTRALMODEL-」「路地庭のある家」などでグッドデザイン賞を受賞。