interview
子どものころから
アート思考を育む
美術教師・アーティスト
末永 幸歩さん
自分なりのものの見方で
答えを創っていくアート思考。
その理解を深めるワークショップを
数多く手掛けている末永さんに、
子どものころからアート思考を
育むためのヒントを伺った
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- アーティストたちのアプローチ
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私が「13歳からのアート思考」という本で紹介したアンリ・マティスやピカソといった6人のアーティストは、その根っこには、自分なりのものの見方というか、まず自分の興味や疑問があるんです。そして、そこから考えていって、結果的に作品が生まれています。与えられた課題を解決するとか、世の中で認められたいとか、そういったアプローチとは違っていましたね。
探求して、生きる力をつけていく
「いつもと違ったものの見方をしてみようよ」、「常識や前提を疑ってみたら、どんなものが生まれるかな」‥‥そんな考え方がアート思考です。あらゆる考え方の根本になるものだと思っています。2020年から始まっている文部科学省の新しい学習指導要領を読み込むと、まさにアート思考的考え方‥‥「探求して生きる力をつけていく」といった内容が書かれていて、教育の世界も変わり始めています。
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- 新しい答えを創る
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自分が感じている違和感や関心を抱いていることから問いを立てる。その答え方には、ふたつの方法があります。ひとつは答えを探すという方法です。図書館やインターネットで調べたりすることですね。もうひとつは、今はない未来の答えを創ってみる方法‥‥たとえ「ありえない」と言われるようなものであっても、自分なりの答えを創ってみることが、アート的な答えの創り方です。
たとえば、新しい信号の話
小学生の子どもたちに疑問を書いてもらうんです。たくさん疑問が出てきます(笑)。たとえば「どうして、信号は青と黄と赤なのだろう」。そう考えた子どもは、記号で示す信号を作ってみたんです。それから、子どもたちの対話のなかで「記号じゃなくて意味を持たせよう」となって「ゆっくり注意して進めの黄色はカメで、どんどん進んでいい青はダチョウ‥‥赤色はどうする?怖いものが出てくれば止まるんじゃない?」。それで、みんなで怖い鬼を描いてみる‥‥。
プロセスでの出来事が大事
みんなで描いた鬼は、さまざまなんですね。歯がいっぱい生えている鬼や手が大きい鬼が生まれてくる。これは「信号を創る」から入って、鬼を描くという話に逸れているのですが、それでいいんです。「怖いもの」という新しい疑問が生まれていく、その活動での「プロセスでの出来事」が大事です。結果にこだわるより、次々と疑問や発想が生まれていくことを重視しています。
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- 木片しかない「こっぱひろば」
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私の探求型のスタイルの原点は「こっぱひろば」です。そこには、小さな木片しか置いてなくて、なにを創るかは決まっていないんです。「〜を作ろう」と活動のゴールを示すことはしていません。人の興味はそれぞれなので、ゆっくり探求していける場所を保証する。私たち大人が「それでいいんだよ」と見守ること。そのふたつが大切です。
いろんな発想が生まれます
「こっぱひろば」には、ずっと座っている子どもやみんなの様子を観察している子どもがいて、それもひとつの参加の方法です。いろいろな種類の木があって、匂いも手触りも違うので、好きな木片と出会うことを楽しんでもいい。好きな形を集めたり、積み木みたいに遊んだり‥‥。いろんな発想が生まれます。
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- ご自宅でアート思考を育む
- ご自宅でも「こっぱひろば」のように、子どもたちが思いのままに創作できる場所を用意してあげることをお勧めします。小さな部屋でもいいし、小さな机でもいい。そこには創作意欲が生まれる素材を用意する‥‥家庭であれば、クレヨンはイメージを描くだけではない多様な活動が生まれる素材ですし、ガムテープは立体をつくる素材としても使えます。
いつでもお絵かきできる部屋
私の家だと、ひとつの部屋は片づけなくてよくて、クレヨンは取り出しやすいように缶に入っていて、スケッチブックが広げられている。クレヨンは硬さもいろいろで、スーと描けるもの、強くやらないと色が出ないもの‥‥。クレヨンは巻紙を取って、折って描いてもいいし、床に描いてもいい。とにかく、すぐに描けるし、自由に描けるんです。
親子のさまざまなコミュニケーション
そして、親が見守ることが重要で、そのコミュニケーションもさまざまです。ふたりで描いてみたり、まねっこしてみたり‥‥。子どもにかけてあげる言葉は、評価するような言葉じゃなくて「やさしいねー」「ぐるぐるだねー」など、自分が感じたことを伝えるようにしています。
自分の存在が、まるごと肯定される
子どもにとって、その行動を無条件に受け入れられることは、自分が認められている実感につながります。アートは答えのないものに対し、自分自身の答えを創り出すことです。だからこそ「自分の存在」がまるごと肯定されることが、とても重要なのです。
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- 13歳を過ぎてもアート思考を
- 「すべての子どもは、アーティストである。問題なのは、どうすれば大人になったときにもアーティストのままでいられるか」。私の好きなピカソの言葉です。「その通りだな」と思っていて、著書のタイトルに「13歳からの」と入れたのも理由があって、子どものころはアート思考ができていても13歳あたりから失っていくんです。
未来を切り開く力に
これからは、変化が大きな時代で、何が起こるか分からない時代です。「自分で答えを創っていく」。それが未来を切り開くことにつながっていきます。ぜひ、子どものころからアート思考を育み、13歳を過ぎても「自分起点でものごとを考える」ことを、私たち大人が応援してあげることが重要だと思います。
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profile
- 末永 幸歩さん
- 美術教師/アーティスト。武蔵野美術大学造形学部卒業、東京学芸大学大学院教育学研究科(美術教育)修了。浦和大学こども学部講師、東京学芸大学個人研究員。アートを通して「ものの見方を広げる」ことに力点を置いたユニークな授業を、都内の中学校や高等学校で展開してきた。子どもの創造性を育むワークショップ「ひろば100」、教育機関での講演、大人向けアート思考セミナーなど、アートに関する活動を年間100回以上行う。プライベートでは1歳児の子育て中。著書に「13歳からのアート思考」(ダイヤモンド社)がある。
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