interview
春になったら
親子で近くの山へ
登山家
花谷 泰広さん
「日本にはたくさんの山がある。
登山と気負わずに、
ゆるゆると山を登ってみるのがいい」。
世界の山頂に立ってきた
登山家の花谷さんに話を聞いた
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- 幼少のころから山と親しむ
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僕が生まれ育った神戸の実家は、六甲山の登り口まで歩いて10分くらい。神戸は市民ハイキングの文化があって、幼いころから祖父や両親とハイキングに行っていたので気がついたら山が遊び場でした。小学校の5年生のときには、両親に頼んで登山教室に行ったりして、登山を始めていました。それから、ずっと登山にはまっていますね。
就職先は「山」です
大学在学中には、ヒマラヤ・アラスカ・アンデスなどの海外の山々にも挑戦しました。卒業後は、山岳ガイドをしながら、自らの登山を突き詰める生活でしたね。30代で、ネパール・ヒマラヤで大きな登山に成功して「ピオレドール賞」を受賞しました。現在は、山梨県北杜市で、多くの人々が登山に親しめるような活動に取り組んでいます。
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- もっと、自然のなかに
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日本には、身近にたくさんの山があって、日本全国どこに行っても「山の国」です。もっと、山を楽しんでほしい。自然のなかに身を置くことは楽しいものです。山じゃなくてもよくて、川遊びでもキャンプでもいい。子どもは、そういう体験に飢えているし、大好きだし、大人もそうだと思います。山に来ている人たちを見ても、山でコーヒーを飲んだり、バードウォッチングをしたり、釣りをしたり、自由に遊んでいますよ。
まずは近くの春の山へ
多くの人は、きっかけがなかったりして、山に行く機会がないんです。とにかく、難しく考えずに、近くの山へ行ってみることをお勧めします。春の山は緑が美しいし、暖かいし、冬と比べて危なくないし、それに用意する装備も少なくなります。「東京に住んでいるなら高尾山でいい」と思います。身近にあって、情報がたくさんある山がいいですね。登ってみれば、大人も子どもも、いろんなことを山から感じますから。
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- 根性論じゃなくていいんです
- 学校登山みたいに頂上に立つことを目的にしなくていい。根性論じゃなくていいんです。楽しめばいいんです。山の世界は、保守的な考え方だから「道具を揃えよう」、「雨具を買おう」とか言いますけど、そもそも、日帰りの登山で、雨の降る予報の時には行かないですよね。これだけ詳細に天気予報がわかる時代ですから、もっと気楽に考えていいんです。
ラクなことが大事です
最近、トレイルランニングが増えていますけど、ああいう装備で山に行くと楽ですね。荷物が少ないし、足元は軽いし、登山靴を買う必要がない。やっぱりラクなことが大事です。できるだけ、しんどい思いはしなくていいです。
トレーニングもハードルを下げて
事前に登山のために何かトレーニングをするのであれば、歩くことより階段の上り下りがいいですね。いきなり10階ぶんの階段を上り下りなどとハードルを上げると、続かなくなります。すべては続けることが重要です。エスカレータは使わないようにするとか、続けられることから始めてください。
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- 山に登り続けてきて
- 僕自身で言うと、幼いころから山に登り続けてきて、「結果的になにが身についたか」を考えると、自分で考える力だと思うんです。究極的に言うと、自然を相手にするということは、死ぬかもしれない可能性をはらんでいます。だから逆算して、死なないように考えていく。自分の頭で考えて、自分で判断していく。そういうのが、自然のなかに入っていると、自然に身につきました。
多感な子どものころに
山に限らないんですけど、自然体験活動をたくさんやっている人ほど、そういう考える力が鍛えられます。それが大人になってからでもいいと思うんですけど、多感な子どものころに、そういう体験をしておくと、そのことがきっかけになって、ものごとを考えられるようになりますね。
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- ホームマウンテンの勧め
- 家族で毎年登る山をつくるのもいいですね。ホームの山です。日本の山のおもしろさは、春夏秋冬と違う景色を見ることができることです。それに同じ山だと、登るほどにハードルが下がってきます。毎年、一泊二日で、同じ宿に泊まり、同じ山に登る。そういうのも楽しいです。いきなり富士山ではなく、ホームの山から始めて、そこから高い山や新しい山を目指すのがいいですね。
春は始めるのに、いい季節です
僕は子どもと山へ行くときは、なにも意図せずに行っています。子どもが嫌だと言えば、途中で帰ります。難しく考えず、春の自然に包まれるつもりで行けばいい。行かないと、その心地よさはわからないんです。春はなにかを始めるのに、いい季節です。春になったら親子で山へ登ってみてください。
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profile
- 花谷 泰広さん
- 1976年兵庫県生まれ。幼少から六甲山で登山に親しむ。1996年にラトナチュリ峰(ネパール・7035m)に初登頂。以来、世界各地で登山を実践。2012年にキャシャール峰(ネパール・6770m)南ピラー初登攀で、山岳界のアカデミー賞と言われるピオレドール賞を受賞。2015年より若手登山家養成プロジェクト「ヒマラヤキャンプ」を開始。現在は山梨県北杜市に住みながら、甲斐駒ヶ岳・黒戸尾根の「七丈小屋」や「アグリーブルむかわ」を運営、北杜市のふるさと親善大使など、幅広く活動中。
関連サイト
登山家|花谷泰広|公式サイト