interview
落語に親しんで、
ココロの免疫力を高めよう
落語家
立川 談慶さん
「落語に描かれている
おおらかな世界を知ると
気持ちがほっこりします」。
立川 談慶さんが、
ココロの免疫力を高める
落語の魅力を話してくれた
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- 落語に描かれている世界
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私の師匠だった立川談志が「落語とは、人間の業の肯定である」と言いました。超訳するならば「人間はダメでもいいんだよ」というメッセージに変換できると思うんですよね。酒を飲むなと言われても飲んでしまう。片思いや横恋慕に悩んでいたり、お金がないのに見栄っ張りだったり‥‥。そういうダメな人ばかりが出てきて、その人たちが紡ぐ話を聞いていると、ココロがほっこりするのが落語です。
息苦しい社会
世の中、許容度が低下してきているじゃないですか。自粛警察という言葉が流行ったりしてね。「いいか、悪いか」の二元論になってしまっていて‥‥。それをネット社会が助長していて、ダメな人を許さないようになってきていますね。自分の狭い了見を人に押しつけて、結果として自分自身が住むコミュニティを息苦しくさせているわけですよ。
もっと、おおらかな社会へ
もっと落語に親しんでいただいて、人の失敗を揶揄するんじゃなくて、あなたも失敗するし私も失敗します。お互いの失敗を分かち合う、かばいあう間柄になればいいんです。かつての日本人が持っていた「おおらかな価値観」を分かち合うべく、落語に親しんでいただきたいですね。そうして、凝り固まってしまった価値観を解きほぐして、もっとやさしい気持ちになって、ココロの免疫力を高めるのがいいと思います。
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- 愛されキャラの与太郎さん
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落語で愛されているキャラのひとりが、与太郎さんです。彼は、もう成人と言っていい歳なのですが、定職にはつかず、常識には無頓着で注意力も散漫で失敗ばかりしています。現代では生きづらい与太郎さんも、落語の世界ではひょうひょうと生きることができています。
一日に、2度は合う時計
「道具屋」という落語では、与太郎さんは壊れた時計を売るわけですよ。 買いに来たお客さんが「こんな壊れた時計なんか買っても意味ねぇだろ」って怒ったら、「んなことないよ。壊れた時計でも一日に2度は合うよ」って返します。これは「与太郎さんのやさしさじゃないか」と思っていて、壊れた時計まで存在意義を見出す。「誰でも役立つんだよ」というメッセージに聞こえるわけですよ。
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- ココロのゆとりの幅を
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落語の世界の住人は矜持を持って生きていました。貧乏でも「お互い様」と言って人を援助したり、やせ我慢から仏像から出てきた大金を突き返したり。江戸にあって現代にない価値観がたくさん出てきます。そんな落語を聞いて「ああそうか、なるほどな」と、ココロのゆとりの幅を広げてもらうのがいいと思います。
「しょうがねぇなぁ」が似合う人に
「しょうがねぇなぁ」っていうのは、いいセリフですよね。否定でも肯定でもない、まぁ肯定なんですけど。否定的な場面に出くわしたときに、許容するセリフとして用いられがちですよね。談志もよくつぶやいていました。私も「しょうがねぇなぁ」が似合う人になりたいんですよ。
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- 江戸時代の理想の世界
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江戸時代というのは、今以上にストレスだったと思うんです。6畳に5~6人で暮らしていて、長屋の人間関係もわずらわしいし、台風や家事も多い。そんな世の中の理想を描いていたのが、落語です。「人間関係は、こうあるべきだよな」という世界を描いていたんですよね。
ぜひ、親子で落語を
大人だけでなく、子どもにも落語を楽しんでほしいですね。小学校の入学式の帰りに「親子で落語を聞いてみようか」となるとうれしいですね。子どもたちに「おおらかな価値観」‥‥日本人が持っていた和を重んじる心が引き継がれていくといいですね。もっと言えば「あぁこのことは、ちりとてちんだね。それは、芝浜だな」と、落語が親子の共通言語になってもらえるとうれしいですね。
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- ココロの免疫力を高めよう
- 落語には、なんとかなるさと呑気に暮らす人がいて、しょうがねぇなぁと折り合いをつける世界があります。バカだけどコツコツと地道に働いて愛されるキャラもいて、そいつを助けるコミュニティがあります。ココロの柔軟運動みたいなもので「そんな世界があるのか」と笑っていると、じわじわとココロの免疫力が高まっていくと思うんです。
未来の社会に必要なこと
落語で語られている世界って、時代を追うごとに純度が高まっていて、もう知性の塊で真理ですよ。現代は、江戸時代とは違うストレスフルな社会です。居住空間もパーソナルな部分が確保されていて、個性が重んじられているにも関わらず、居場所がなかったりとか‥‥。文明が進化しても、ストレスは倍増するというか‥‥。だからこそ、未来の社会には、ますます落語が必要になるんじゃないでしょうか。
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profile
- 立川 談慶さん
- 1965年、長野県上田市(旧丸子町)生まれ。慶應義塾大学経済学部を卒業後、株式会社ワコールに入社。3年間のサラリーマン体験を経て、1991年に立川談志18番目の弟子として入門。前座名は「立川ワコール」。2000年に二ツ目昇進を機に、立川談志師匠に「立川談慶」と命名される。2005年、真打ち昇進。「天才論 立川談志の凄み (PHP新書)」「教養としての落語(サンマーク出版)」「武器としての落語(方丈社)」など著書は23冊に。現在、資本論を落語で読み解く本を執筆中。
関連サイト
立川談慶公式ホームページ