interview
暮らしの質を高める
音楽の力の話です
脳科学DJ
宮﨑 敦子さん
「音楽を聴くことや歌うことが
暮らしの質を高めていく」。
そんな研究を続けている
脳科学DJの宮﨑さんに
音楽の力について教えてもらった
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- みんなで打楽器を叩いていると
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私のDJのボス※は、DJを行う前に、みんなで輪になってドラムやパーカッション、タンバリンを叩くんです。演奏を続けていると、ダンスする人や楽器を演奏する人が出てきたりして、自然に盛り上がるんです。だんだんと、その場が楽しくなって、人と人のつながりができていきます。
※ニューヨーク、ブルックリン在住のホアキン・ジョー・クラウゼル氏。ダンスミュージック界の世界的音楽家
音楽が、暮らしの質を高める
そのボスから学んだ「音楽の不思議な力」を、脳科学的に解き明かしたいと思い、40歳で東北大学大学院に入学しました。そして、脳トレで有名な川島隆太教授の研究室で研究をスタートさせ、約13年です。楽器の演奏は敷居が高いかもしれませんが、音楽を聴いたり、歌うことで、暮らしや仕事のパフォーマンスを上げることができることがわかってきました。
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- アスリートが集中力を高めるように
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多くのアスリートが、ヘッドフォンなどで音楽を聴くことで集中力やモチベーションを高めているシーンを見かけたことがあると思います。自分の好きな音楽を聴いて、自分の時間をつくって、脳を覚醒させて集中力を高めていく‥‥。この音楽とパフォーマンスの関係に対しての実験を行いました。
テンポの速い音楽が、お勧めです
音楽を聴いて、さまざまな作業を実施する実験です。その実験を通して短期記憶の作業は明快な結果が出ました。短期記憶の能力は、作業や動作に必要な情報を一時的に記憶・処理する能力で、暮らしや仕事のパフォーマンス向上につながります。重要なことは、メロディではなく「テンポ」です。テンポの速い音楽を聴くことで、「短期記憶のパフォーマンスが上がる」という結果でした。テンポを認識するのと短期記憶を担う脳の場所が同じため、テンポを知覚すると脳が覚醒し、短期記憶に必要な脳の準備が整うのです。
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- 仕事や家事の前に、大好きな音楽を
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仕事や家事の前に、好きな音楽を聴くのがお勧めです。できれば、テンポが速ければ、なおよしです。それに短期記憶だけでなく、人はビートやリズムを感じると脳の運動前野が活性化し、運動や動作の動き出しの準備が整います。行動を開始しやすくしてくれるのです。今日は掃除が億劫だなと感じたら、まずは音楽を流してみましょう。
BGMの価値は、人それぞれ
デスクワークなどにおけるBGMの効果については、人それぞれです。特に内向的な人は、BGMが脳のなかで干渉してしまいがちですが、外交的な人は気にならないようです。BGMの効果は、継続性のサポートにあります。ランニングやウォーキングのときに音楽を聴くと時間の経過を早く感じるように、長時間の作業のときにはBGMがあると続けやすいです。
入眠時にはリズムのない音楽を
眠りに入るときの脳の活動は、先ほどの「テンポの速い音楽で脳が覚醒する」というお話の逆の状態です。脳を覚醒させない方がいいので、入眠時はリズムを感じない音楽がいいですね。ストリングス系、雨の音や川のせせらぎの音などを聴くのがお勧めです。音楽によって、暮らしのオンオフを切り替えるのがいいですね。
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- 歌うことは脳トレです
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私がカラオケと脳の関係を調べようと思ったのは、川島隆太教授の音読の脳トレに影響を受けたからです。文書を黙読するより、音読するときのほうが脳活動は活発になります。前頭葉の最前の部分である前頭前野が左右の脳で活発に動きます。音読が脳に効果的であるならば、歌うことも同様だと考えて実験しました。軽度認知障害の方に、歌本カラオケトレーニングを行った結果、認知機能が改善しました。
お風呂で歌を歌おう
歌を歌うことは、認知機能と身体機能を同時に鍛えられるトレーニングです。歌うことで脳のいろんな場所を使うことで前頭葉が活性化しますし‥‥舌の筋力や呼吸の能力も改善します。お風呂などで歌うことを習慣化してはいかがでしょうか。但し、同じ歌ばかりだと脳トレの効果は下がっていきます。歌える曲を増やしていくのがいいですね。
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- 音楽を暮らしに取り入れて
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音楽は、いろいろな形で暮らしに取れ入れることができるんです。ダンスが小学校や中学校の必須科目になりました。ダンスをすることで、前頭葉の実行機能が高まります。実行能力とは、注意力、処理能力、思考の速度、推測力など目標を達成するために必要な能力です。ダンスすることで身体機能も向上します。リモートワークの合間などにダンスすれば、脳と身体のトレーニングになりますね。
音楽で暮らしを豊かに
スマートスピーカーや定額制の音楽配信サービスなどの登場により、暮らしに音楽を取り入れやすくなっています。住まいのなかに自然に音楽を流すことで、心地いい空間が生まれます。私も70年代や80年代の曲を聴いて、リラックスしています。ぜひ、音楽で暮らしを豊かにしていただきたいですね。
撮影:ミサワホーム「Green Infrastructure Model(グリーン・インフラストラクチャー・モデル)」 ミサワパーク東京(東京都杉並区高井戸)
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profile
- 宮﨑 敦子さん
- 医学博士。東京大学先端科学技術研究センター 身体情報学分野 特任研究員。東北大学大学院 医学系研究科脳機能開発研究分野 博士課程修了。国立研究開発法人 理化学研究所 情報システム本部 計算工学応用開発ユニット 研究員を経て現職。 脳と音楽の関係、ドラムを用いた認知症予防・改善プログラム開発などの研究を行なっている。Dr.DJ.ATSUKO名義で長年DJ活動を続けている。また、ダンス・ボーカルユニットTRFと共同で健康長寿プログラムDVD「リバイバルダンス」の開発も行なっている。
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Atsuko Miyazaki/X