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『眺めのいい部屋』や『日の名残り』の名匠ジェームズ・アイヴォリーの作品。亡くなった作家の思い出の中で生きる一家が、新たな一歩を踏み出すまでの時間を、南米の気怠い空気の中で、優雅に描き出す。アンソニー・ホプキンスをはじめとする名優たちが奏でるアンサンブルが豊かで味わい深く、人生の滋味を感じさせる。
『最終目的地』
監督:ジェームズ・アイヴォリー
出演:アンソニー・ホプキンス、ローラ・リニー、シャルロット・ゲンズブール、真田広之ほか
『最終目的地』
発売元:ツイン
販売元:パラマウント ジャパン 4,179円(税込)
南米・ウルグアイの気怠い空気。どこか優雅に暮らす人々。ジャングルのように木々の生い茂る広大な土地に暮らすのは、亡くなった作家の妻と愛人、兄とその恋人。少し変わった組み合わせの家族が、作家の思い出を抱えたまま、その土地から離れられずにいる。
そんな折、アメリカからひとりの訪問者がやってくる。作家の伝記を書きたいという若き文学者。彼の出現が、作家亡き後、止まった時間を生きてきた人々の心を少しずつほどいてゆく--。
今は亡き作家の存在が、一家にかすかな影をおとし、そんな文学的な退廃が、暑い土地のおおらかな空気と混ざり合って優雅な音楽を奏でるかのよう。
一家を演じるのは、アンソニー・ホプキンスをはじめとする名優たち。大人のユーモアや優雅さを感じさせる登場人物の、何気ないふるまいや、ふとした台詞、時折、切り取られる風景の美しさに思わず、ため息がもれる。
気候のいい土地だけあって、一家がお屋敷のバルコニーで食事をする場面が印象的だ。昼間からボトルを空け、思い思いに置かれたウッドチェアでシャンパンを楽しんだり、天井からすだれを垂らし、白いテーブルクロスでランチタイムを過ごしたり。前に進まず、今だけを見つめる人々のなんと豊かなことか。都会にいると、無駄にさえ思える止まった時間が、南米の緩やかな空気の中では、ひどく贅沢なものに思えてくる。
やがて人々は、作家の思い出から解き放たれ、新たな一歩を踏み出す。人生において前に進む時間が素晴らしいのは言うまでもないが、前を向けない時間もまた豊かなものをもたらす。むしろ、その方が人生と呼ぶのにふさわしいのかもしれない…そんな気分にさせる、香り豊かな大人の物語。
文◎多賀谷浩子(映画ライター)
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